第37話ーーおっさんは普遍である
アルとウルフと共に転移で戻ってきたおっさんは震えていた。
そこへルルアーシュが訪れた。
「大磯様、システムのご説明に……んっ?進化されたのですよね?」
おっさんを見て首を傾げるルルアーシュ。なぜ不思議がったかといえば、神とは人間の認識外となる高次元体の存在になるはずなのに、おっさんが以前と変わらぬ身体だからである。
「失礼します…………震えていらっしゃるのは……何か不具合をお感じに?」
おっさんの身体をペタペタと触り確かめ、震えている事に気が付き質問を投げかけた。
そこで身体に問題は無い事と、震えている理由を話すと、ルルアーシュは更に不思議そうな顔をした。
「喜ばしい事でございますのに、それに何の不満が?……あぁ、大磯様を象っているのに弱かったのでしょうか?」
「いや、そうじゃなくてさ。俺の顔みたいなモンスターがいるとか、恐怖じゃない?」
「有象無象に恐怖を与える存在、素晴らしいですわ。新木様はよくわかっていらっしゃる」
「違う、そうじゃないんだ」
「では何が……?愛とは素晴らしいものですね」
どうやらルルアーシュには伝わらなかったようだ……不満に思うところが違った。そして愛を持ち出されたら何とも言えなくなるおっさんである――魔王にしたがっているのは、人間ではなく身内にいたようだ。
「やぁーやぁー久しぶりっ!」
そこへ中間管理職の神様が現れた。
どうやらルルアーシュが連絡を取ったらしい。
「おおっ!神に至ったというのに変質しないとは……やはり大磯くんは異質だね!能力自体は進化しているから、問題ないと思う。これからも期待しているから頑張ってっ!」
「あっ……!」
やはり神になっても異質なおっさんらしい。
新木の創造物に文句を言おうとしたおっさんの言葉を遮るように、言いたいことを言って消えてしまった中間管理職――忙しいのか?それとも何かを察したのか……
「無事進化されていたようで安心致しました。アル様ウルフ様、ガイン殿がお探してでしたよ」
「あっ、そうにゃ。保、ドラゴンの肉持ってるにゃ?出して欲しいにゃ……狩りに行くのはちょっともう嫌にゃ」
「あぁあるよ……そっか狩りに行って遭遇したんだ」
「そうにゃ」
アルたちがなぜ91階層などに行ったのかは、パーティー用の肉を必要としたからだった。
おっさんのアイテムボックスから出された大量の肉塊を道具袋に移し替えると、アルたちは部屋を去って行った。
「では大磯様、パーティーまでの間に管理システムを説明させて頂きますので、移動致しましょう」
ルルアーシュに促され、移動した先は屋敷の隣に建てられたビルである。
掲げられた看板に絶句した後、中に入りまた声を失った……なぜなら新築なはずなのに、まるで安っぽい、ブラックな匂い漂う小企業さながらの雰囲気を持っていたのだ。
「3階でございます」
ギシギシと不気味な音を立てるエレベーターに乗り着いた先は、乳白色の古びた扉が1枚あり、その取手には壁に打ち付けられた杭に絡めるように鎖が巻き付き、錆の浮かんだ南京錠が所在なさげに付けられていた。
南京錠を開け入ったその場所は数十畳の殺風景な部屋で、真ん中に机と椅子がポツンと存在していた――まるでどこぞの大企業で問題になった追い出し部屋のような風体だ。
異質なのは、机の上に数十と浮き上がっているモニターのような画面……それはステータスが表示されるものとよく似ている。
モニターには見ただけで頭が痛くなるほど、文字が書き連なっていた。
その一つ一つをルルアーシュが説明していく。
地球上に現存する生物の総計や、各種族の生存数。気候から大気中の成分の割合などなど……地球の全てが事細かく書き記してあるらしい。
全てを聞き終えたおっさんはぐったりしていた……こんなモノをいくつも同時に行うなど、ルルアーシュが逃げ出したくなったり、世界を滅亡に追い込みたくなる気持ちを理解出来てしまうほどだった。
「ご理解頂けましたでしょうか?」
「あぁーうん、大変だったんだね」
「お気遣いありがとうございます……当面は扱うのに不安かと思われますので、私が隣ににてサポートさせて頂きます」
「ありがとう、よろしくね……ところでこのモニターは?」
唯一説明を受けていないモニターがある事に気づいたおっさんが質問すると、ルルアーシュは顔を顰めた。
「これは……地球上には宗教施設が多々あると思われますが、そこで願った者の言葉を集約しているものでございます」
「宗教施設?集約?」
「ええ……例えば神社仏閣や教会などで、人間種が身の程を知らぬ願いを祈っているモノを、言語化してここに書かれるようになっております」
「えっ?全ての宗教施設?」
「はい、地球世界の場合は現在の主だった文明を築いているのが人間種のみとなりますので、その考えを簡単に汲み取る為、世界中にある各種宗教施設を利用しております」
どうやら身近にある神を祀る場所は、本当に神へと届いていたらしい。
「願えば届くんだね……」
「まぁ滅多に見ませんが」
「見ないの?」
「ええ、私利私欲に塗れた願いばかりですので……公の願いが伴う時のみ、時折見る事もありますが」
「そりゃそうか……」
これまたルルアーシュの気持ちを理解出来てしまうというものだ。毎日どこかで何億という人間が、私利私欲に塗れた願いばかりを祈っているものをわざわざ見たくはないだろう――おっさん自身も身に覚えがあり過ぎた……『彼女が欲しい』とか『お金が欲しい』と見かけたら自らの欲望のみを願っていたのだ……神など信じてもいないくせに。
「他に質問はございますか?」
「あぁ、うん、このシステムの話ではないんだけどね?なんでこんなビルにしたの?南京錠とか……」
「あぁ、これは中級神が大磯様と新木様が慣れ親しんでいる雰囲気にしようと考えた結果でございます。ただあくまでも雰囲気ですので、このビルに入れるのは、現在隣の屋敷に住まう者のみとなっていますので、セキュリティの点をご心配されているでしたら、ご安心下さいませ」
「……そうなんだ」
中間管理職の神様からの優しい計らいだったようだ……そして何だかんだ、落ち着いてしまっているおっさんがそこにいた――悲しくも、その魂にはブラック小企業の雰囲気が染み付いているようである。
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