第32話ーーおっさん愕然とする
真なるリーダー出現により、海中ダンジョン踏破は着々と数を重ねていた。
ブラック企業さながからのノルマ、そんなハードスケジュールは直ぐに破綻するかと思われだが、そこは真なるリーダーウルフはこれまで他の4人に振り回されてきたせいか、飴と鞭の使い方がとても上手かったのだ……どっかの誰かさんとは大違いである。
まずはなんちゃってリーダーのおっさんを初日に攻略した。深夜にまでかかり踏破ノルマを終えた一行が帰宅し、食事や諸々を済ませた後自室にそれぞれが戻った際、ウルフはおっさんの部屋へと赴いた。
「大磯様……今日は眷属の分際で生意気な口をきいたどころか命令までしてごめんにゃさいにゃのにゃ」
トテトテと頭を下げながらおっさんの足元まで近寄り、上目遣いでの謝罪。ケット・シーの可愛さを存分に利用したあざとさ……更に目の縁には涙付きの最強コンボである。
「えっ?気にしてないどころか、ありがとうねっ!」
おっさんはイチコロだった。
ウルフが懐に忍ばせ隠した、目薬の存在には気付きもしていなかった……まんまと騙されていた。
「ありがとうございますにゃ……それで……」
「それで?んっ?」
「頼み事があるんですにゃ」
「どうしたの?」
「お疲れだとは思うんにゃけど、たまにアルにしているようなブラッシングとかして欲しいにゃ」
ウルフはダメ押しにかかったようだ。わざとらしく手を胸の前でモジモジさせたりまでしている。
「う、うん、いいよ!」
「あとにゃんか肉球が疲れてるから、肉球もマッサージして欲しいにゃ」
「えっ?も、もちろんいいよ!」
更に更にアルが滅多に触らせない肉球を差し出したのだ。
おっさんは完落ちである。ふくよかな顔をだらしなく歪めていた――ウルフが人間の女性ではなくて、つくづく良かっただろう……ブラッシングする姿が変態的とかではなく、きっとケツの毛までむしり取られていただろうという危惧の意味で。
おっさんに不満どころか喜びを与え、しっかりとコミニュケーションをとった次に訪れたのはアルの部屋である。
「にゃんにゃ?裏切り者のウルフ」
「相談があって来たにゃ……」
「相談?」
「そうにゃ、地上にいる飼い主のいない猫たちが可哀想にゃから、この島へ住むことを大磯様に許可して貰って来たにゃ」
「にゃっ!本当にゃか!?」
「そうにゃ、今度の休みの時一緒に連れに行かにゃいか?」
「行くにゃっ!さすがウルフにゃ」
さすが元恋人と言うべきか、アルがチョロいだけなのか……一瞬でご機嫌になったようだ。それにしてもおっさんをデレデレにさせるだけではなく、猫移住の言質まで取り付けるとはさすがである。
次に向かったのはローガス。
「大磯様が日本で販売されている炭酸飲料が心許にゃくにゃっているようですにゃ。日本に行った時についでに買ってくると、きっと喜ぶにゃ。明日は休みににゃったから行ってくるといいにゃ。あとコスプレの題材になるようなアニメDVDとか小説を買ってくると、情報収集という言い訳も生きてくるにゃ」
「その情報感謝致しますぞ」
日本へと向かう理由と、苦し紛れに言った言い訳を補強してくれた事に大喜びした。
ルルアーシュはこれまでドラゴンレーダー以外には、館内に電気を供給する道具や、どういう仕組みかインターネットに接続出来る環境作りに精を出していた。地上と同じようにおっさんたちが生活出来るようにである――度々何かに付けて世界を滅ぼそうとする以外では、何だかんだちゃんとおっさんの為に動いてはいるのである。
「今の道具作りの後の目標として、あるアニメに出てくるロボットに作業ゴーレムを似せると、大磯様は大喜びするにゃ」
ルルアーシュには分かりやすく与えられる飴が見つからなかった為に、おっさんが喜びそうな情報の提示になった。
そんなこんなで、天空の楽園に移住してから1年を経た頃、海中ダンジョンを全て踏破した……その数9,000箇所である。
北極圏や南極といった、極寒の地を潜るためにルルアーシュが寒さ耐性の道具を急遽作るなどという事もあったが、無事協力し合いながら終了した。
「これで日本に原油が輸入されるぞっ!」
おっさんは大喜びであった……
――だが現実は直ぐに輸入再開されるわけはないし、もし輸入されたとしてもそのような物への供給はもっと後回しになるだろう。
「保様は原油の為に海中ダンジョンを先にされたのですか?」
「そうっ!プラスチックを含め何から何まで原油由来の物は多いしね」
「ほう、そこまでは私も調べておりませぬでした。さすがでございますな。それで原油とはどのような物でしょうか?」
「えっ?……」
ローガスの質問におっさんは戸惑ってしまった。原油が精製されて石油などになるとは分かっていても、実際に見た事などないのだ。そこでネットで調べて見たところ、ローガスから衝撃の発言が飛び出した。
「保様……これとよく似た物を私共は燃える腐り泥と呼んでおりました。そしてそれは踏破後の鉱石ダンジョンから発見されていたと記憶しておりますが……ルルアーシュ様いかがでしょうか?」
「ええ、踏破後の鉱石ダンジョンからは地球世界で言うところの、原油や石炭、様々な鉱石や宝石、レアアースなどと呼ばれるものも産出されます」
「えっ……」
おっさん愕然で涙目になっていた。
途中遺跡や沈没船に夢中になり、目的を忘れたような行動をとったりもしていたが、週5で朝から晩まで潜り続けていたというのに、まさか地上ダンジョンから産出されるとは青天の霹靂状態――ことわざの”灯台下暗し”を体現していた。
そんな時だった、日本のある場所の空にミサイルが何度も打ち上がっている事に気付いたのは。
何か起きたのか?
きっとろくな事ではないだろうと思いつつも、地上世界監視モニターで日本を見てみると、おっさんの家族が銃を突きつけられている事が判明した。そしてその理由……即ち世界の大国からの圧力に日本が負けて、脅迫の為に呼び出しを行っている事もわかった。
地上に降りる必要などないと、ルルアーシュから反対はされたが、以前新木と相談した結果を元に考え、降りて家族の態度を見てみようとなった。そしてもし助けたいと思えたなら、眷属4人を呼び出すので転移で天空へと連れて行って欲しいと頼んだ。
そしておっさんはドラゴンに乗り、ゆっくりと降下して行った。
その心に儚い希望を抱きながら……
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