第31話ーーおっさん正座する
飛び込み及び水泳が出来るようになり、全ては簡単に踏破を重ねて行けるように思えた海中ダンジョン探索だが、それは決して順調とは言えないものだった。
なぜなら5人の前には強大な敵が立ち塞がっていたのだ……
半神とその眷属四人衆。
現在の地球世界において、圧倒的な力を持つ5人が手こずる相手とは何か?
それは、海底に眠る……古き時代の遺跡や沈没船である。
残念主従こと、おっさんとアルの心を刺激しまくってしまったのだ。
ローガスとルルアーシュの2人は長らく生きている弊害と言うべきか……あまり興味を抱かなかった模様である。
「大磯様はそのようなものがお好きなのですね?」
「そりゃあね!未知なる物への探究心というか……ねっ!?アル」
「そうにゃっ!にゃんというか……心がくすぐられるにゃっ」
「かしこまりました、では大磯様、ここにどんな文明があったのか、また沈んだ経緯を神界に問い合わせ致しましょう」
「えっ!?……」
「止めるにゃっ!見てどんなものがあったのか想像して、過去に思いを馳せるのがロマンというものにゃ。ルルはわかってにゃいにゃ」
「そう!その通りっ」
おっさんとアルはとても必死だった。自らの妄想を淡々と否定されながら解説などされたらたまったものじゃないからである。
「そうですか……知らないものを想像するのがよろしいとなると、現地球に存在する大陸を沈め、海流に晒されてどうなるかを未来に見るというのも好まれないという事でしょうか?」
「何その怖い実験!止めてっ!止めてね?」
違う意味で好まないし、楽しめないだろう。正しく神々の壮大なる遊び……ルルアーシュはどうにか滅亡に追い込みたいらしい。
ダンジョンなどそっちのけで、遺跡を見つけてはおっさんとアルははしゃぎ回る。沈没船があれば2人で隅々まで探し回り、財宝かガラクタか微妙な物を根こそぎ攫っていた――「俺たちはトレジャーハンターだ!」などと意味不明の事を叫びながら荒らしまくる……ただの盗掘者である。もしそこに学者が居たならば、泣いて殴りかかってくるだろう。だがただ病に踊らされている2人は、歴史的価値のある発見も、人類の宝と言われそうなものも全てぞんざいにノリでアイテムボックスに仕舞いこみ続ける……そしてきっと二度と取り出すことはないだろう。
ローガスとルルアーシュは止めたり諌めたり、ダンジョン踏破を促す様子は一切なかった――2人ともこの地球世界がどうなろうともいいのだ。特にルルアーシュは滅ぼす方がいいとさえ思っている。その為この調子で遊んでいたら、後々間に合わなくなるか、焦ることになるのは明白だが黙っているのだ。
そしてもう1人の眷属ウルフ。
彼はとっても困っていた……日本でアニメや小説にそれほど触れる機会がなかった為に、おっさんやアルのように病に罹患していない。その為に嬉々としている2人に付いていけない。
だがローガスやルルアーシュのように地球が滅びればいいとも思っていない……悲惨な目にはあったものの生まれも育ちも地球であるし、おっさんが世界を救うと決めた事に従うつもりだからだ。
4人の間で揺れた結果……1人でダンジョン踏破を重ねる事となる――たった1人、まともな者であるが故の苦悩である。
遺跡や沈没船を見つけると、最低その日1日は全くダンジョンには向かう事のない2人。その2人を確認すると、天空へと戻るルルアーシュ、どこかへ転移していくローガス。そして黙々とダンジョン踏破するウルフ。
そんなおかしな日々は唐突に終わりを告げる。
おっさんの忠実なる眷属、唯一まともな1人であるウルフがブチ切れたのだ。
ある日の朝食時、さぁこれから今日もダンジョンに行こう……いや、昨日は発掘で疲れたからお休みにしようなどと和気あいあいと話してある時だった。
「皆さんにお聞きしたい事がありますにゃ」
ウルフは静かにそう切り出した。
「ん?どうしたの?」
「にゃんにゃ?」
「「どうしましたか?」」
呑気に食事を頬張りながら首を傾げる4人。
「まずは大磯様にお聞きしますが、本当に地球を救うのですかにゃ?このままだと間に合わなくなるですにゃ」
「えっ?……あぁうん」
「大磯様もアルも事ある毎に「いつまでも少年少女の心を忘れにゃい」とか「夢を心に詰め込むんだ」とか言っているけど、詰め込むのはその腹にいっぱい溜め込んだ脂肪だけで十分にゃ……はぁっ」
「「……ご、ごめんなさい」」
呆れた表情でため息を吐きながらの言葉に、おっさんとアルはつい謝ってしまっていた。
「そうでございますな、ロマンよりも先に仕事をこなしましょうか」
「ええ、遺跡などは逃げませんわ」
「にゃに自分たちは関係ないような顔をしてるにゃっ!ローガスさんはいつも転移してどこに行ってるにゃ?」
「……各地をまわったりしておりますが」
「嘘にゃっ!どうせメイドに会いに行ってるにゃっ!大磯様を放っておいて女に会いに行ってるにゃ」
「そ、そんな事は御座いませんぞっ!さぁっ!ダンジョンへ行きましょうぞっ」
ウルフの指摘は的を射ていたようだ。先程まで素知らぬ顔でいたローガスが、分かりやすいほど狼狽え、おっさんの顔をチラチラと伺っている。
「1人……女に……ローガスの今日のダンジョンノルマは10ね」
「保様っ!本当ですぞっ、メイドたちには会いに行ってなどおりませぬ」
「本当に?」
「どうせ元メイドとかそういうオチにゃ」
「くっ……じ、情報収集していただけで御座います」
「ノルマは15ね」
ウルフは巧みだった。おっさんの嫉妬心を煽りつつの非難を行う事で逃げ道を無くしたのだ。
「ルルアーシュさんには1つだけ教えとくにゃ。アルの言っていたドラゴンレーダーなる物はこの世にはにゃいにゃ、アニメの世界の話にゃ。だからムキになって作る必要にゃいにゃ」
「え……」
「そんな時間があるなら、大磯様の気持ちに寄り添ってとっととダンジョン行くにゃ」
ルルアーシュは大福に機能がついたにも関わらず、必死に作っていたらしい。
「みんなわかったのなら返事するにゃっ」
「「「「はいっ」」」」
「じゃあ遅れている分を取り戻すためにも、今日から毎日潜るにゃ!最低1人辺り10にゃ」
「「「「えっ!?」」」」
「にゃんにゃ!?返事は!?」
「「「「はいっ!」」」」
未だ長い時は3時間ほど掛かるダンジョン踏破、もし全てが長いモノに当たったら30時間……ローガスに至っては45時間掛かるという事である。
おっさんやルルアーシュでさえビックリのブラックぶりである。
だが4人はウルフのあまりにもな変貌ぶりに、つい正座をしてしまっていた。
「じゃあ、行くにゃっ!」
奇人変人の中にまともな者が入ったらどうなるかの、ひとつの真実がそこに現れようとしていた……いや、隠れていた本当の姿が現れただけかもしれないが。
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