第28話ーーおっさん深く考える②

 明けましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いします。

 ――――――――――――――――――

「疲れた〜ただいま」

「ただいま戻りましたにゃ」


 神から進化の有無を聞き、おっさんが顔を顰めて無言になってしまい数分経った頃、当事者の新木がウルフと共に姿を現した。


「おかえり〜」

「あれ?みんな険しい顔をしているけど、どうしたんです?」

「あっ……うん……新木さん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

「えっ?いいですけど」


 空気の悪さに気付いた新木の声に対して、一瞬詰まったおっさんだったが、先延ばししてもいい話ではない事と思い直し、話し合う事にした。


「悪いけどみんな、2人にして貰っていいかな?」

「どうしたんです?」


 真剣な眼差しの皆に、新木とウルフはオロオロとするばかりである。


 新木以外が各々部屋へ戻ったところで、おっさんが重々しい口調で話し始めたを


「うん、新木さんに聞きたいことと言わなきゃいけない事があってね」

「どうしたんです?突然改まって……も、もしかして噂のハーレム要員が見つかったから許して欲しいとかですか?」

「へっ?ちが……違うよっ!」


 心の内をどう聞こうかと悩むおっさんに、突然突きつけられた暴走原因である欲望を言われ、激しく動揺した。

 そもそもおっさんのハーレム妄想による暴走が、現在の境遇に至る原因なのだ。つまり全てはおっさんが悪いという事である。


「ハーレムはダメですからね?だいたいルルの事も納得出来ていませんし」

「いや、ルルアーシュは神様に付けられたんだし、そもそも男も女もない人形らしいよ?」

「えっ……人形?」


 人間だと思っていたら、人形と言われてすぐ理解出来るはずもない。首を傾げる新木に、先程された説明を詳しくするおっさんであった。


「えっと……大磯さんは人形相手じゃないと興奮しないという事です?」

「えっ?なんでそうなるの?違うよっ!」


 しっかり説明したつもりだったのに、とんでもない性癖を押し付けられそうになって焦るおっさん――とりあえずビニール人形相手から始めた方がいい気もするのは、気のせいではないだろう……それ相手にすらヘタレを発揮しそうでもあるが。


「えっと、話戻していいかな?」

「あっ、はい」


 この空気で真面目な話に持っていこうとするおっさん……今日はへこたれないようだ――この一味で集まると、おっさんがツッコミになりつつあるのは、周りがおかしいのか、やっぱり似たもの同士が集まっているだけなのか?怪しいところである。


「新木さんさぁ、最近無理していない?」

「無理っていうのは?」


 首を傾げる新木に、おっさんは最近感じていた、現実逃避しているように見える事、人の悪意が辛いのではないか?などという疑問を投げかけた。


 問いかけるに連れ、次第に俯き気味になり、震えだし……涙を零した。


「怖いんです……なんであんなひどい事出来るのか……どうして……」


 やはり悪意に心を痛めていたようだ。

 鈍感なおっさんでさえ当初は同じように悩み、引きこもったのだ……無理もないだろう。


「これから悪意は更に増えると思う……」


 これからの予定……世界のダンジョンは踏破するつもりではあるが、短期間で全てを行えるはずもない事。それは苦しむ者や死んだ者の家族たちからは恨まれる事となる。逆にすぐに踏破が終われば終わったで、またつい先日と同じように悪意は募る……つまるところ、何をしても誰かの悪意を受け続けるという事実を告げた。


「そうなんですね……こんな目にあっても大磯さんは世界を救うんですね」

「まぁそうだね……思うところがないわけでもないけど、なんだかんだ日本好きだしね。食べ物も、アニメとかも……」


 尊敬の眼差しの新木に対しての、おっさんの答えが悲しい……家族の事は置いておいたとしても、「友人が……」とかではない所におっさんの人生が見えてしまう。


「このままここで眷属になるのを目指すので本当にいいの?地上に友人や知り合いとかもいると思うけど、誰とも普通に会えなくなってしまうって事だけど……」

「っ!!…………はい、一緒に地球を救いたいです」


 おっさんの確認のような問いに、新木は弾かれたように顔を上げたが、その後しばらくして力強くおっさんを見つめて答えを出した。


「それとお父さんとかお母さんはどうしたい?」

「大磯さんはどうするんです?」

「……どうしたい?」


 別れを告げた事など言えるはずもない、もし言ってしまったらそれは新木を追い詰めることとなってしまうだろう。


「出来れば、出来れば一緒に暮らしたいです……でも、我儘ですよね」

「いや……そりゃそうだよね。じゃあ、明日にでも迎えに行こうか」

「いいん……ですか?」

「ここ以外は安全じゃ無くなるからね。でも友人知人は悪いけど招けない。理由はとめどなくなるから……」

「そうですよね……大丈夫です」


 日本の淡路島の人口は凡そ13万人。その事から考えるならば、新木の親族全てや友人知人くらいは住まわせる事は可能だろう。だが、それはまた妬みや悪意を生み出す原因となる事をおっさんは危惧していた。


「ごめんね」

「いえ……大磯さんのご家族も招くんですよね?」

「……もう別れは告げてきたから」

「そんなっ!」


 驚き悲しみを浮かべる新木に、家族の態度などを説明するおっさん。

 それに対し、それでも家族なんだからと言い募る新木だったが、おっさんは悲しげに首を横に振り続ける……そして、もしいつか彼らが変わっていたなら、迎えに行くという事で決着が着いた。



 翌日、2人は地上へと転移し、両親を迎え行く事となった。

 その際おっさんは、恨み言などをぶつけられる覚悟をしていたが……一切そのような事はなかった。それどころかおっさんに同情をし、その身を気遣う程の人物だった。

 その為天空の屋敷でも、アルたち眷属三人衆にも快く迎え入れられる事となった。

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