第6話ーーおっさんは泣かれる

 3ヶ月後


 世の中では第2次ダンジョンブームが起きていた。

 いつぞやの探索者協会の職員が企んだ通りに、巨体の中年男性が力を得た事、そして若き美女を彼女としている事が男性を奮起させたのだ。

 実際は新木がおっさんに恋心を持ったのは、ダンジョンなどが出現する前の、素の状態のおっさんだったのだが……そんな事を誰も知る由もないないし、もし知ったところで誰も信じないだろう。


 ローガスの言った、経験値1000倍、魔力無限大というありもしないスキル玉を探して、世界各地のダンジョンは毎日盛況でもある。特にガイン・ミルカ夫妻が経営する料理屋前のダンジョンは、発見地として紹介された為に入場規制がされるほど朝から晩まで探索者の長蛇の列が出来ていた。


 日本の探索者協会や自衛隊は、日本国内のみならず世界中から批難の声が殺到した。対応を間違わなければ、今頃世界中のダンジョンを率先して踏破してくれていたかもしれないと――真実は確かに2〜3は踏破したかもしれないが、全てはおっさんの気分次第なのだが。


 これに伴い探索者協会の親元……つまり日本政府は解散総選挙が行われ、ダンジョンに潜った事があると自慢気に語り台に登る者がたくさん立候補したりしていた……結果はいつもとそれほど変わる事もなかったが。


 おっさん……いや、ローガスが会見で語った様子から、「きっと彼は日本政府に恨みを抱いているだろう」などと邪推し、あらゆる国家がおっさんたちを自国へ招こうと日々接触の機会を狙っていた。

 手紙・メール・電話などなど……直接自宅へ押しかける者も多数居た。部屋付きダンジョンに篭もりきりのおっさんたちが気付く事はなかったが……

 そして憂慮していた通りに、おっさんと新木の親族に接触勧誘する者も多数いたが、事前の周知徹底により言葉に惑わされる者はほとんどいなかった。

 ただ、取り次ぎを願う声と共に渡される袖の下で急激に生活が豊かになった家庭があったとかなかったとか……

 そして日本各地のある場所で、定期的に外国人が警察署に自ら「私は工作員です」と出頭してくる事が頻発している事が、専らの話題となっていた……その裏にヴァンパイアヒップホッパーがいた事は言うまでもないだろう。


 おっさんと新木の家にも外国人工作員、勝手に2人を神と崇める新興宗教家、妬みからの嫌がらせ、自称友人や血の繋がりの怪しい親戚などが大挙して押し寄せていたが、ローガスが護衛として用意したヴァンパイアの余り2人が、無難に対応排除していた。


 世界各国でもダンジョンブームは起きていた。老いも若きも原始的な武器や、ゴブリンが落とす貧相な剣を研いだだけの物を掲げ我先にと探索に乗り出す。


 それに伴いダンジョン素材がこれまでと比にならない程供給される事により、様々な研究が進む事となった。

 こういった研究で郡を抜いているのは日本である。魔晶石が新たなエネルギーになるといち早く研究しだしたのと同じく、これまで様々なライトノベルで想像されていた事を軒並み実験したりしたのが現実となった形である。

 この事からSF・ライトノベル作家や、日々妄想や空想ばかりしていた人々が、突然一大発明家の仲間入りになる可能性が生まれ、特許庁は連日申請で溢れかえっていた。


 そしてそれは当然軍事転用される事にもなる。もしもスタンピードが起きた時の為との名目を声高に叫びながら――それはいつの日か新たな火種となる事を予感させてならないが、人間という種の業だろう。



 一方、その当事者たるおっさんたち一行は、既に100階層のボス部屋内を覗き見も済ませ、今はそれぞれにレベル上げに勤しんでいた。


 3ヶ月で彼らは順調……いや、敵が敵だけに異常なスピードでレベルを上げていた。

 スキルもそれぞれこれまで必要としなかったものまで取り入れ、各々が修練も重ねる。

 また全く外に出ることも無いために、食事での会話は自ずと限定されてくる。

 そこで判明したのは、妖怪猫又ことウルフくんの出身地?出身家?である。彼から聞き取ったところ、野良の母から公園の片隅で産まれ、物心ついた頃に近所の子供たちに無理矢理首輪とリードで木に括り付けられた。ご飯を与えられる事も、手に入れる為に出掛ける事も出来ずに死にかけていた所、アルが通りかかり助けてくれたらしい。骨折していた脚を回復魔法で治し、アザやヤケドの跡も治してくれたと……名前はその子供たちに付けられていたらしい。

 自らが強くあらねば生きて行けぬと、アルに相談したところダンジョンに潜る事を薦められ、2人で探索している内に愛が生まれたらしい……

 過剰な独占欲から生まれた残虐性か、それとも悪意ある行動なのか、この話を聞いて誰もが同情した。特におっさんは同情と子供の行為に一番腹をたてていた。その子供たちがどんな容姿かを聞き取り……そして納得した。どうやら以前に外を歩いていたら、笑いながら石をぶつけられたり、罵られた事があるらしい……悲しい事件である。

 おっさんの過去はともかく、猫泥棒ではなかったと、ほっとした3人である。


 アルは猫又になった子猫と。ローガスは新木と共に組んで戦い続けている。

 アルと子猫ウルフがコンビなのは理解出来るが、なぜ新木の相手はおっさんではなく、ローガスなのか?それはおっさんが誰かを守りながらや指導しながら戦う事に全く向いていないからである。

 奇数である5人パーティーによる弊害……1番独りにしてはイケナイ人物をぼっちで戦わせていた。


 寂しく孤独に戦うぼっち中年は、仲間を欲した、アルと出会う前の時のように欲してしまった。


 そして目を付けたのはドラゴンである。

 91階層〜99階層は、バージョンアップ前と同じく全階層ドラゴン祭りだった。そこで召喚対象にする事に思い至ったのだ――テイムという選択肢を選ばないだけおっさんは成長していた。


 赤・青・緑・茶・黒・金・白・クリスタル・エメラルド色のドラゴンが、各階層に一種類ずつ存在していた。

 どの色もカッコよく見えるのだ、そしてあの悲しいバイコーンのように潰れる心配もない。

 優柔不断に定評のあるおっさん、進化した事により無駄にある魔力にものを言わせ……全てを対象とする事を選択した。


 おっさんが実力以上の力を発揮するのは、怒り時、悲しい時、モンスターと間違われた時……そして欲望に駆られた時である。

 故にぼっちの寂しさ+欲望まみれのおっさんは強かった。目星を付けたドラゴンを傷つけないように、拳で殴り倒し次々と我が物にしていった――常時その力を出せないのが、おっさんがおっさんたる所以でもあるだろう。


 ある日の昼食時、おっさんは契約した全てのドラゴンを同時召喚をして自慢した。

 そりゃあもうドヤ顔で自慢した。


 まず新木が全身を黄金で覆われた金龍に飛びついた。


「命名する!君はこれから百式ね!私の専用騎乗用ドラゴンとするから」


 勝手に名付けし、おっさんの召喚獣だというのに自分専用とまで言い出した。


「えっ?それ俺の……」

「百式もいいよね?」

「グルゥ」


 どうやらドラゴン自身も納得したようである……きっと契約はしたものの、かなり嫌だったのだろう。

 更におっさんが乗ろうとすると、身を捩り振るい落とそうする程だ。

 <百式 Lv285 種族:金龍王 備考:大磯保の召喚獣・新木ヒロコ専用>と何故かシステムまで認めてしまっていた。


 そしておっさんと新木がそのような遣り取りをしている間に、アルとウルフは炎龍王と仲良くなり、ローガスは黒龍王と仲良くなっていた。

 <クリムゾン Lv270 種族:炎龍王 備考:大磯保の召喚獣・アル・ウルフ専用>

 <クロ Lv277 種族:黒龍王 備考:大磯保の召喚獣・ローガス専用>

 という鑑定に出た時……おっさんは涙目であった。


 その後それぞれが騎乗し、意気揚々と狩りに出かけた後……どんよりとした雰囲気と共に、ブツブツと裏切ったドラゴンとシステムに呪詛ともいえる言葉を吐いていたのを見ていた残りの青・緑・茶・白・クリスタル・エメラルド色のドラゴン達が震えながら、顔色を窺うようにしておっさんに顔を寄せ慰めるように鳴いていた……泣いていた。

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