第17話ーーおっさんついにやらかす
「はい、私は今ダンジョン前に来ております。平日の昼間にも関わらずゲート前には20人ほどの方が並んでいるようです」
ダンジョン前ではマイクを持った女性が少々大袈裟に身振り手振りをしながら喋っており、それを少し離れた所で映すカメラマンや集音マイクを持った人達がいる。どうやらどこかのテレビ番組のリポートのようだ。
おっさんはその集団をそっと避けながら列へと並び、ダンジョンへと進入する。
本日はこれまで来た事のない一般ダンジョンに1人で来ているのだ。なぜなら毎日偽装スキル玉を探し続けても一向に出る気配もない為の気分転換である。そしておっさんは食糧のなる木を見てみたかった……
新木を誘う事も考えたが、目的は踏破後にダンジョンの変容を見たいだけなので、サクッとクリアしてしまおうと1人という訳である。
他の探索者の前で戦闘を行うと、おっさんのステータスの異常な高さがバレてしまう恐れがある為に、気配を押し殺しつつ隠形や気配遮断スキルを全開にしつつ一気に低層を走り抜け5階層まで辿り着いた。
ボス部屋前を管理する自衛官や、順番待ちのパーティーには「1人なんて」「無謀」「バカ」など罵られはしたが、自己責任を全面に押し出して突入し次の階へと足を進めた――おっさんは本日は大人の対応であった……違う、踏破してしまう事でここに通う近くの探索者などが困るかもしれないという罪悪感からだった。
また10階層までこっそりと走る。ただ残念な事にスキルで気配などは消せても風圧や影が消せるはずもない。横を通り過ぎられた人々は、不思議な現象に眉を顰めたり、恐怖を感じたりしていた――知らぬはおっさんばかりなり。
走りながら思い出すのは事前にネットで調べてきた情報だ。最近では公式の探索者協会のHPだけではなく、一般探索者のブログや攻略サイトまで山程存在している。その中にはパーティー募集、レベル自慢、到達階層自慢などが溢れていた。そしてこのダンジョンの最高到達階層は24で、<GOD>と名乗る20人組の男女混合パーティーが常駐しており達成したらしい。日本国内の公式最高到達階層は富士山麓にあるダンジョンで自衛隊パーティーが記録している31階だそうなので、一般探索者としては、それなりに頑張っているパーティーなのだろう――それでもGODと名乗るのはどうかと思うのだが……
ローガスに聞いたところ、最終階層は必ず10単位との事なので、最高到達階層から予測できるのは最低でも30階層以上という事だ。今日はGODやらが潜っていない事を祈りながら、おっさんは走り続ける。
10階層ボス部屋前でも順番待ちパーティーと自衛官がおり、5階層の時と全く同じやり取りを繰り返すもサクッとクリアし進む。
15階層においては順番待ちどころか自衛官もいなかった。さすがにこの階層を1人2人で待機しているのは仕事とはいえ危険という事なのだろう――まぁ、おっさんにとっては煩わしさが無い分ありがたいだけなので、全く気にもしていなかったが……
16階層以降は走らずに戦いながら歩く事にしたおっさん。踏破の事ばかり考えていたが、もしかしたらここで偽装スキル玉が出るかもしれないのだと思ったと、もちろん他探索者がいない事もある。
黙々と屠ってはドロップを拾いながら歩く事数十分……おっさんは飽きてしまった。やはり1人は寂しいのだ、特に現在は正常な精神状態の為。
新木を連れてくれば良かったかと考えもしたが今更の話である。そこでローガスをアイテムボックスから出す事にした、もし他探索者が居たとしてもローガスならば鑑定(全)持ちでもいない限り人間に見えるし、もし居た場合はおっさん自身もなので諦めることが出来る。ただアルの場合は変身後姿での戦闘経験がない為不安だし、ケット・シーの姿では大問題なのだから仕方がないだろう。
2人で話しながら敵を屠りながら歩く……主におっさんがローガスをさに異世界の事を質問する形で。
ダンジョン関連の事をネットサーフィン中に書いてあるのを読んで気付いたのだが、道具袋以外に所謂異世界ファンタジーで出てくる魔道具と言われる物を見た事がないという事だ。地球上のダンジョンでは道具袋さえも見つかっていないのである。
「確かに魔晶石を利用した道具は御座いました。こちらの世界で言うところの電化製品のような物です」
「やっぱりあるんだ」
「ええ、形も仕組みも違いますが車に似た物や汽車に似た物も御座いました」
「ダンジョンの宝箱から出たりしなかったの?」
「出ませぬ、道具袋だけは例外というよりも、未だに人の手では作れなかったのですよ」
「そうなの?」
「ええ、仕組みが分からないのです。こちらの書物など読みまするに、別空間にスペースを確保して固定すると言いますが、それをどうやって行うのかは今に到ってもさっぱりでございます……ですので神の御業としか言いようが御座いません」
納得の話だった。そりゃあ王族や大貴族、大冒険者しか持てないのも無理がない。そしてアイテムボックススキルを対してジト目になるのも仕方がない。
そんな話をしている内にも20階層ボス部屋を越して23階層へと到っていた。今や2人に取っては武器を振るわずとも、手で軽く殴るだけでも殺せる程のレベルの低いモンスターしか出てこないのだ――以前にゴブリンを素手で掴んでアルに臭いと言われた事から、オーバーキルになるとはわかっていても武器を使うおっさんである。ちょっぴりトラウマになっていた。
「それにしても他の方をお見かけしませんな。これで全てのダンジョンを踏破など出来るのでしょうか」
「1000年って猶予があるから気にしてないんじゃない?もう数年経てばスキルや武器なども市場に有り余ってくるだろうし、それからじゃないかな?」
「ふむ、1000年などあっという間に経ちそうですがね」
「そういえばローガスって寿命はいくつなの?」
「私共ヴァンパイア種は最長でも1000年程です」
1000年をあっという間という言葉がわかるというものだ。現代日本の平均寿命が84.2歳、医療の発達など考えると、このまま進めば平均寿命は100歳になるのもそう遠くない未来だろう。そう考えると約10倍の寿命を持つ種族という事だ。
いや、考えるところはそこでは無い。現在の日本人平均寿命からローガスの年齢を換算すると約30〜31歳辺りである。
そう!おっさんより年下なのである……悲しい事実が発覚してしまった。
それにしては……いや、何も言うまい……おっさんに幸あれ。
広い森林地帯である23階層を抜け、ようやく24階層への階段を降りた所だった、男女の集団がその場を占めていたのだ。
「おいおい人来たぞ」
「マジで!?」
「おい、おっさん!お前ら何人組?」
「……2人ですが」
「嘘つくなよ!マジ盛りすぎだって、俺らGODでさえ20人だぞ?2人とか無理だろ」
どうやら神を名乗るの例の集団のようだった。
「さあどうでございましょうか?それよりも先に行きたいのでそこを通して頂けますかな?」
「いやいや無理でしょ!だいたいおっさんなんで執事服着てるんだよっ!場違い過ぎだろ」
「ふぅ……私の衣装がなんであれ貴方様方には関係ない事と思われますが?そして邪魔ですのでおどき頂けますかな?」
「だから無理だって言ってるの意味わかんない?ここは俺達GODの場所なの、お前達が来る場所じゃないの、わかる?」
「占有という決まりはないはずですが?」
おっさんは黙ってローガスの会話を見守っている――金髪にピアスの如何にもな20代前半の男にビビってただけだった。パッと見てそこにいるのは6人程だが、全員が似た風貌をしているのだ、おっさんの一番苦手とする集団である。そっとローガスの陰に隠れていた。
「ハッキリ言いましょう、邪魔ですのでおどき下さい」
「はぁ!?」
「てめぇふざけんなよコラ」
「マジないんですけど〜」
「殺すぞコラ」
一気に険悪なムードである。ますますおっさんは大きな身体を小さくしてローガスの陰に隠れようとしていた。
だが、そのような行為は逆に目立ったりするものである。肩を怒らせながら詰め寄ってきた金髪に見つかってしまった。
「あぁっ!?なんだおっさん、オークをテイムしてんのか?」
「ヤダこわぁ〜い、犯されちゃう〜キャハハ」
「オレ……オークチガウ」
「おいみんな〜オークが言葉喋ってるぞー」
「ヤベッ!」
「オークチガウ」
「オーク殺して焼肉パーティーしようぜ」
「オークだ」「マジ喋ってる」「オーク!」
彼らは調子に乗った挙句に禁句を言ってしまった。本人達にとっては軽い冗談だろうが、それは許されない言葉……
そして暴走中年への変身ワードでもあった。
「おいそれどこから取り出した?」
「えっもしかしてそんなスキルとかあるの?」
「鑑定持ち来て!」
「おい何とか言えよ」
アイテムボックスから魔剣を取り出したおっさんと、それを目敏く見つけ大騒ぎする集団。
だが今更普通の言葉を話そうとも、何を尋ねようとももう遅い。
いつの間にかローガスはおっさんの後ろ数メートルの位置に移動していた。
「……コロス」
一言ぼそりと呟いたと同時に魔剣を振り抜いた瞬間、目の前にいた4人の胴が上下半分へと別れた。
「キャーッ!」
「助けっ……人殺しっ!!」
武器を振りかぶって向かってくる男の首を刎ね、立ち尽くす女を一刀のもとに斬り伏せる。
そこからは阿鼻叫喚である。叫び声に反応し駆け寄ってくる男女の集団を次々に屠り続け、途中からは逃げ惑う者達を殺しまくる、男性中年型殺戮マシーンだった。
止まったのは31階層へと階段を降りた所で、前方に向かって雷魔法を落とした直後、おっさんは気絶した――そこは一面水が足首の高さまである湿地帯だった……暴走中も少しヌケているいつものおっさんである。
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