標的は古老! Ⅲ

 この大捕物への協力者探しは難航した。セリーヌ・ジェルボーは敵も多いが味方も多い。「……彼女は?」

 六華とわたしは、毎晩遅くまで協力者をしていた。履歴書を見て審査を行う。

「香港マフィアか。こないだ潰した上海の組織絡みで怨恨を持たれてるセンもある、アテにはしないほうがいい」

「じゃあこっちは? ニューオーリンズのマフィアで、外人傭兵部隊にいたこともある……」

「どれどれ」

 斯様に選別を続けていくと、真に頼れる人材は限られてくる。水面下で動いている件とはいえ、既にセリーヌには気取られているだろう。

 ブランシュのアガリは、疑われないように一部だけを潰した。正直なところみたかったし、六華も少しくらいなら、と持ちかけてきたが、ここでハマると本末転倒だ。すべてが終わるまでお預け、ということになった。




 爽やかな秋晴れの朝、わたしたちはオンボロ車で都内のホテルへ向かっていた。セリーヌはさるフロント企業の幹部と会談中、しかしその幹部は既にわたしたちの駒だ。徐々に追い詰められているセリーヌ・ジェルボーにとって、藁にもすがる思いで得た協力者だろうが、今日、すべては水泡に帰す。

「ちょっと可哀想かも……」

 ハンドルを握る六華が、複雑そうな顔でそう漏らす。

「……気持ちはわかるけどね」

 相手は大罪人なんだ。わたしは少し語気を強めて言った。まぁわたしたちとて人のことは言えないだろう。それでも、セリーヌ・ジェルボーをこの手で止められるのなら――手段を選ぶつもりは、ない。

 ホテルの前で車が停まる。ドアを開けると、右から待って、の声がかかった。

「何――」

 顔を向けたわたしの唇を、柔らかいものが塞いだ。

「……景気づけ。頑張ってきて」

 六華は紅くなった顔をそらし、逃げるように車を出した。

「あれで景気づけのつもりかい」

 わたしはにやける頬を抑えながら、ホテルへ入っていった。







 数日後。

「かんぱーい!」

「かんぱーい!! お疲れ!」

 分けてもらったブランシュをベッドに重ねながら、わたしたちはシャンパンを開けて浴びるように呑んでいた。

 今日は記憶失くすまで楽しもうと誓い合って、高級ホテルのワンフロアを貸し切った。セリーヌ失脚のリターンはそれができるくらいに莫大だった。

「はぁ……いい夢見れた」

「何言ってるの、まだまだこれからよわたしたちは」

「へへ……向上心の大きいことで」

「……ふふ」

「……あはは!」

 何度目かわからない乾杯をして、わたしと六華は快楽の波に沈んでいった。

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