標的は古老! Ⅰ
本国からお偉いさんが視察に来るというのに、わたしたちは思いっきり寝坊をこいてしまった。
「どーすんの!? ヤバイって、これ流石に」
「そうは言ったってさ……あのアッパー、キモチよすぎるんだし仕方なくない?」
「仕方なくなんかない!」
原因はわかりきってる。アッパー系のヤクを最高のセッティングでキメて、夜中までベッドの上で愛し合っていたからだ。昨夜は本当に、
六華は助手席でメキシコビールを浴びるように呑んでいた。正直腹立たしいが、彼女を詰っても仕方がない。わたしはポンコツ車のアクセルを踏んづけて、ホーンを喚かせながら公邸までの道を急いだ。
車を近くのコインパーキングに停め、わたしと六華は件のお偉いさんに会いに行く。本部からは随分傲慢なお客だ…というような忠告が飛んでいる。何らかのハラスメントはありえないと思うが、万が一六華にその魔手が及んだときにはわたしは容赦しないつもりでいた。
他のメンバーと並び、お偉いさんを出迎える。みんなかっちりとスーツを着込んでいるのに、わたしたちだけラフなブラウスとジーンズだ。それが許されている。若いなりに血の滲むような思いをして、ここにいる。わたしも六華も、それをおくびにも出さないが。
間もなく、公邸の正面玄関から、目的の人物が姿を現す。思っていたのと随分違う。50代半ばくらいの、気立ての良さそうな西洋人だ。丸眼鏡をかけ、柔和な笑顔でお辞儀をする。王族か皇族を思わせるようなオーラと物腰を纏っていた。彼女がわたしたちの拍手に見送られながら、公邸の門を通る頃には、門柱の前に横付けした高級ドイツ車のドアが開かれたところで、つまり彼女は何もかも至れり尽くせりであった。
六華がパタパタと駆け寄っていって、彼女に薔薇のコサージュを渡す。そしてそのまま何事かを話したが、流暢なフランス語で、わたしには聞き取れなかった。
彼女を乗せたドイツ車が出て、角を曲がり見えなくなると、わたしは六華に耳打ちした。
「うまくいった?」
「ばっちり。任せて」
胸を撫でおろす。とりあえず、第一段階は完了だ。
「さて……じゃあ、化けの皮がいつ剥がれるか、賭けでもします?」
言って六華は、受信器のスイッチを入れる。スピーカーからは、フランス語で喚き散らす中年女性の声が響いてきた。
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