トレジャーハント ⅩⅤ

 宮藤さんの目は悲しい光に満ちて、潤んでいた。

「……危険、です――」

 もはや私の説得など何の意味も持たないことを悟る。無力感で世界が空転する、そんな錯覚に襲われる。

「行って。大峰おおみねさん」

 宮藤さん――そう、掠れるような声を絞り出して、私はよろよろと立ち上がった。渡してくれた鞄を掴む。

 身辺を整えながら、宮藤さんの説明を聞いた。早口で聞き取りづらかったが、なんとか心を落ち着けて話を咀嚼する。質問を挟む余裕もなく、ただ私は言われたことを実行するしかない。

「――以上よ」

 話し終えた宮藤さんの顔には、色濃い疲労が滲んでいた。

「……」

 私は振り返らず、踵を返した。


 オフィスには2箇所出入り口があって、私はさっき加賀見かがみが利用しなかった方を出て行く。エレベーターに乗り込んだ瞬間、私はまたも泣いてしまった。でも、泣いてもどうにもならないことは分かっているので、外に出るまでに涙は乾かした。

 バッグの中身を検める。スマホ、財布、メイクポーチ、そしてレコーダー、いずれも無事。特に、レコーダーに入っている情報は丸ごと使えるくらい重要だ。私が巻き込まれた今回の騒動は、充分にがあった。もし裁判になったとき、これを証拠として提出すれば――きっと、宮藤さんも無事では済まない。



 また写真のことを訊きそびれたが、ともかく宮藤さんがだということはわかった。これからどうすべきかも、宮藤さんに指示を受けた。会社は辞めることになるだろう。辞めなくても出向か左遷か……兎に角、今のオフィスではない場所、新天地で、私は羽根を広げることになるだろう。

 しかしその場合、当初のお目当てである報奨金は……。

 タクシーを拾う。宮藤さんに教えてもらった地名を運転手に告げて、しばらく車に揺られる。目的地に到着。自腹でカードを切るのは痛かったが、経費では落とせないらしいので仕方がない。車を降りると、そこは昔ながらの団地だった。

(加賀見の過去はほとんどベールに覆われてる。うまいこと隠蔽してたみたい……だけど、ここ1週間で探偵を依頼してて、そろそろ結果が出るころだと思うの)

 3号棟、3階、303号室。3尽くしのひと部屋が、その探偵の住処だという。

(ちょっと変わってる人だけど、危害を加えたりはしないから)

 インターホンではなくノックで。そうしないと、反応が返ってこないという。

(私の名前を出せばいいから)

「どなた?」

 扉の向こうから、くぐもった声が響いた。

「あの……宮藤弥生やよいさんの紹介で――」

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