トレジャーハント ⅩⅣ

「じょっ……冗談じゃない! なんでそんな……わかった。急いでそっちに向かう、なんとかしなさいよ」

 何かあったのか。訝しむ私を尻目に加賀見かがみは、命拾いしたな、と捨て台詞を残してオフィスを飛び出していった。


 たっぷり5分。私はようやく落ち着いてきた鼓動を宥めつつ、はあ、と長い息を漏らした。

「い、生きてる……!」

 不思議な感動があった。生命の危機に晒されたことなんて、これまでの人生ではないに等しいと言って良かった。だからこそ、そこまで迫った死の淵を感じて、尚のこと生の実感を得たのかも知れない。私は涙すら流していた。


 喜びは束の間だった。オフィスのドアが開いたのだ。加賀見が戻ってきた……咄嗟にそう思い、私は身を固めた。

 違った。入ってきたのは宮藤みやふじさんだった。

「……あれ」

 彼女は確か、ついさっきまで加賀見と電話を――……。

 そこで気づいた。全ては加賀見を翻弄するためだと。

「……ごめんなさい。いろいろ酷い目に遭わせて」

 宮藤さんが頭を下げる。ほんとですよ、とか、どうしてくれるんですか、とか、言いたいことはいっぱいある筈なのに、どれもこれも言葉にならずじまいだった。

「……あの、なんで、30分かかるって」

 やっと口をついたのは、あまりにも間抜けな疑問だった。

「……フェイクよ。あいつならそこまで気が回らないだろうからって。ただ、あいつを騙し通せる時間はそう長くない。だから」

 宮藤さんは手際良く私の拘束を解いていった。驚くほどスムーズなので、途中で、ああ、彼女が縛ったのだな……とわかった。

 数時間か、下手するともっとぶりに、私は四肢の自由を取り戻した。

 正直、何も信じられない。あんな目に遭って、命まで奪われそうになって。乗りかかった船がもはや難破だ。ここで宮藤さんを頭から信じ込めば、また同じ目に遭うかも知れない。

 それでも。

「逃げて、大峰おおみねさん。あなただけが頼りなの」

「……信じて、いいんですよね?」

「……信じられないわよね」

 宮藤さんが自嘲気味な笑みを浮かべる。

「…………」

 それでも。

「……わかりました。私は逃げます」

 宮藤さんは長い嘆息を漏らした。

「良かった。それじゃ、今から私の言うことをよく聞いて。まず――」

「あ、その前に」

 なに? と宮藤さんは目を細めた。

「……宮藤さんはどうするんですか」

「……」

 沈黙。私は胸騒ぎを覚えた。まさか。

「……あいつを、なんとか説得する」

「……そんな。無理です、だってあいつ、宮藤さんのこと恨んでるんですよ!? そんなの」

「わかってる」

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