トレジャーハント ⅩⅢ

「ふざけないでよ……兎に角、私は待っててやるから。30分で来れるっていうんなら来て。遅れたら許さない」

 加賀見かがみは言い、乱暴に通話を切った。

 そして、こちらを睨む。

大峰おおみね……さん。いや……もうさん付けはいいか。大峰、あんた……もう口割ってもいい頃でしょ。猿轡は外してやるから、洗いざらい話しな」

 加賀見は私の猿轡をやや強引に外すと、さぁ、と顎をしゃくった。

「……はあっ、はあっ……!」

 とにかく、久しぶりの口呼吸だ。私は空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

「……はあっ……げほっ、それでも……話すことなんて何もありません」

 私の前にしゃがみ込んだ加賀見は、その言葉を聞くと、口角を吊り上げた。

「……頑なだね」

 そして、私の脇腹を蹴った。

「うっ!?」

 台車から転げ落ちる。息が苦しい。蹴られた痛みはあまりないが、変な姿勢に衝撃が加わった苦しみのほうが大きい。

「なっ、なにを……」

「さっさと喋んないと命はないよ」

 嘯いて、加賀見はカッターナイフを取り出した。私は目を見開くばかりで、恐怖のあまりに声も出なかった。

 このまま殺される。確信めいた予感があった。加賀見は目がおかしくなっていたし、カッターナイフを持つ手は震えていた。

「さぁさぁ。このままだと社葬であんたのお経を読むことになるよ。その時は私は檻ん中だろうけど」

 目の焦点が定まっていない。私は身体をくねらせて逃げ出した。しかし、どうあがいても歩行速度を超えることはできない。

「はは……まだ勝機があるとか思ってる?」

 のたうち回りながら、加賀見から逃走を図る。何故かはわからないが、生き延びたいと思っている。この期に及んで、報奨金を気にしている余裕はない。では何故なのか、宮藤みやふじに操を立てたいわけでも加賀見には絶対に殺されたくないわけでもない。ただ、、と本能が告げていた。

「ああっ!」

 半ば悲鳴のような声をあげながら、私は自由の利かない縛られた両足で蹴りを繰り出した。当然、空振り。加賀見はせせら笑いながら、カッターの刃を出したり引っ込めたりしながら近づいてくる。

「こ……来ないで!」

 初めて、意味の通った言葉らしい言葉が出た。しかし、それで加賀見に対抗できるわけではない。

「さぁさぁ早く教えてよ、宮藤の奴と何を――」

 瞬間、電話が鳴った。加賀見の携帯だった。

「……宮藤」

 ぼそりと呟いて、加賀見は通話ボタンを押した。

「なんなのもう!? は? 警察……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る