あついよる
気温が摂氏25度を超えると、熱帯夜の認定が下りるらしい。
「暑いっ」
寝つけなくて跳ね起きて、枕元のスマートフォンを点け、気温を検索する。27.5度。熱帯夜の基準には達しているようだ。エアコンを起動させても良いのだが、今月から在宅ワークとなったことで昼間の電気代がとにかく嵩む。よって、夜間にそれに頼らずに済むのであればそうしたい。無論、体調が第一ではあるものの……否、そんなことならまだいい。
布団をめくると、香の下半身に抱きつくようにして眠っている者があった。
「日向ーっ、起きろー! くっつかれると暑くてかなわん」
「むにゃ……」
香は、はぁーっ、と大きめの溜め息を吐いた。
妙に人懐こく、たまに他人の家に転がり込んでは金を無心し、飽きたらどこかへ去っていく。既に香の……というか日向の同級生がこのヒモ被害に遭っている。致命的なものはまだないらしいが、中には彼氏と同棲しているところに転がり込まれてひと悶着……なんてこともあったらしい。香にそういう相手はいないが、玄関開けたらいきなり日向、というのは結構な恐怖だ。来ちゃった、とばかりに屈託のない笑顔がそこに立っていると、なんとなく許してしまいそうになる自分が怖い。
「パチンコで有り金溶かしてさぁ……わたしフリーターだし、もうどこも貸してくんないの!」
「ヤミ金でも行けば」
「やだ、わたしドジだから殺されちゃう!」
ドジにヒモは務まらないと思うのだが、このままだと壁の薄いアパートの廊下で泣かれてしまう危険があったので、香は仕方なく日向を部屋に招き入れた。
思えば、それが間違いだったと言わざるを得ない。日向はいわゆるクズタイプのヒモではないのだ。仕事の邪魔はしないし、頼めば家事もやってくれる。相手に尽くすタイプのヒモ……とでも言おうか。社会性を有しているのである。
「あっ、おかえり香! 見て、お隣さんから鉢植え貰っちゃった」
さらには近所の評判もいいと来た。これで追い出したりなんかしたら香に悪評が立つだろう。故意か無意識か、いずれにせよ恐ろしい女である。
……きっと香は、この生活が心地良いと感じ始めている。
「――駄目だそんなの‼」
「あ……にゃ? どしたの香」
目覚めたらしい。猫みたいな伸びをして、日向はのそのそと布団を出ていく。
香は再び溜め息を漏らした。暑いのは……熱いのは、熱帯夜ばかりのせいではないらしい。
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