イン・シーツ

「ほら……薄い本でさ、よくあるじゃんこういうシチュ」

「あるけどね確かに。だからって実践するとは思わなかったよ」

「……わたしじゃダメ?」

 小動物めいた上目遣い。これに射竦められると思考が鈍る。私の恋人がこんなにも可愛い……かいどう有珠ありすは今年で二十歳はたちになるが、どうにも美貌のせいで甘い汁しか啜っていないらしく、こういう仕種でこちらを試してくる。可愛い、それに異議はない。だが、状況的にはちょっとばかし特異だった。

 なにせ有珠はにすっぽり収まっている。なんでも、「ちょっと前にえっちな本で見た、抱き枕に潜入して恋人にもみくちゃにされるのをやってみたい!」ということだった。協力を申し入れられれば、そこに辞退という選択肢は存在しないが、それでも未知のシチュエーションだけに、即座に実行するには少し躊躇いがある。

 ただ、前述の通り有珠のおねだりに抵抗する術を私は持たないので、あっさり受け入れる羽目になる。

「……ダメなわけないでしょ」

「やったぁ」

 語尾に八分音符のひとつでもつきそうな声をあげて、有珠は歓んだ。腕を動かす度に、シーツの隙間からチラチラと覗くのが眼福……目の毒だ。



 こうかな。彼女は酸欠にならない程度にシーツから顔を出して、あとはその身体をすっぽり布に収めている。華奢だが出ているところは出ている、メリハリの効いた身体だ。触るだけでも折れてしまいそうで、やたらに緊張してしまう。

「ひゃっ」

 腰の辺りを掴むと、有珠が可愛い声をあげる。腰骨ごと持って行けそうなくらい、細くて骨張っている。ちゃんと食べているのか心配になるが、お尻は丸く、大きい。

「……ヘンタイ」

「やれって言ったのはそっちでしょ」

 少しづつ、有珠の息が上がってきた気がする。彼女が参考にした薄い本とやらがどういう展開でそんなことになったのかは知らないが、とにかく布越しにまさぐられるのは有珠にとって気持ちいいこと、らしい。

 実感が伴わなくていまいち感触を掴めていなかったが、ようやくリズムが分かって、同時にぶわ、とが襲いかかってきた。布一枚隔てて触る身体かのじょが愛おしい。同時に、この肢体を心ゆくまで弄びたいという衝動に駆られる。

「やっ」

 有珠が身を捩った。逃がすつもりはない。腕を持ち上げ、上半身を攻める。

「うあ…っ……ん」

 声をあげるまいとシーツを噛む。私も負けじと、肩口に甘噛みを落とす。

「……おねがい」

 悩ましい瞳とぶつかった。

 そろそろお互いに、ギアを上げてもいい頃だ。

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