1+1=1

 同じ魔法寄宿舎に、ふたりは通っていた。

 彼女は肉体の恒久化を、私は永劫たる魂の祝福を求めた。


 彼女は肉体の増強に力を注いだ。ヒトの身体は脆く、ふとしたで崩れやすい。私はとかくそれが気に入らなかったのだが、彼女は違った。表面皮膚、筋肉、血管、骨や臓器に至るまで、身体機能を損なわせることなく、徹底的な耐久力強化を行った。彼女自身の肉体を実験台に。そのいずれも、成功。超人的な魔力と才能が成せる業だった。だがその程度では彼女は満足しなかった。

「私ね、ヒトがヒトを凌駕する夢を、私の魔法ちからで叶えてあげたいと思ってるの」

 彼女の口癖だった。


 私は魂を、つまりは肉体の檻を破り捨てた精神体をこそ至高と考えていた。いつか滅ぶ肉体に嫌気が差した、そう思う人間の数は多かったが、私ほどそれを徹底的に憎んでいた魔術師はいないだろう。魂が「生きたい」と願う状況に反して肉体が朽ちていくのを看過できない……といったところだった。私は魂の在処を求めた。永劫不朽で、一人一人の意志と精神を存在させ続けることのできる理想を。

「肉体なんていらない。魂には、魂が存在するに相応しい場所がある筈」

 私はよく、彼女にそんな愚痴を漏らしていた。愚痴で終わらせるつもりなど毛頭なかったが。


 正反対のふたりだったが、不思議と気が合った。




 あるとき、彼女は私に交渉を持ちかけてきた。いつも笑顔で、かつ冷静な彼女はその日、妙に焦燥感のある顔つきをしていた。

「私の研究内容については知ってるよね?」

「……うん」

 知っていて当然だ。とにかく恒久の肉体を望む彼女の分野は、私の研究と似通う部分をいくつも持っていたからだ。

「……あのね。私の研究は…肉体の絶対的恒久化は、もう佳境なの。完成に近い。でも」

「でも……?」

「……倫理委員会が止めに来た。正確には通告書だけど……適当な名目をつけて、私の研究結果を奪う気なの」

 荒唐無稽だった。だが、親友が嘘を言っているようには思えなかった。

「……私は、どうすれば」

「あなたの研究――精神の行先を探すっていう、あの……」

「……」

 合点がいった。私の「魂」の最終到達点を提供するというのだ。

 それは彼女の研究結果によって得られた、究極の、不朽の肉体。

 悪い選択ではない。しかし――。



「魂と肉体は別れられない」

「ひとつにならなければならない」

「私は……」


 こうして、研究はした。

 倫理委員会は、という結果を前に、屈した。


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