快眠業者 Ⅸ
(最近、人の住んでいた形跡はなし……けれど)
「……この屋敷」
「……なんです?」
探偵は怯えた調子で訊いた。加奈は階段を登りながら、誰かに――探偵ではなく、この屋敷の何者かに、話しかけるような口調で、言った。
「怪しい。絶対に。暴いてみせる」
宣戦布告にもとれるそれは、探偵の顔を青ざめさせるには充分だった。
探偵に1階の見張りを任せ、加奈は2階を探ることにした。物を隠すなら2階、もし何かいても、そいつが逃げられないのも2階だと思ったからだ。もしもこちらに能動的に危害を及ぼすような存在であれば、それは逆に危険だが……幸いスマートフォンの電波は通じる。妨害でもされない限りは問題ないだろう。
2階は1本の廊下と、その両端・真ん中に通路があるEの字型の構成をしているようで、3つの通路はどれも光が届かず薄暗かった。一歩一歩を慎重に踏み出していく。とにかくうるさいくらい床が鳴った。
(……)
1本目の通路。突き当たりに1枚のドアがあるのみ。鍵がかかっているようで、開かない。探索には来たものの、壊すのは少々忍びない。加奈は踵を返した。
2本目の通路。さっきとは打って変わって、左右にドアが立ち並んでいる。しかし、全てのドアノブを回しても、中に入ることはできなかった。やはり鍵がかかっている。
こうなると3本目も望み薄だ。加奈は少しばかり落胆しながら、最後の通路を進んだ。
「あ」
ドアはなかった。代わりに、突き当たりに紙切れが落ちていた。
近寄る。紙は比較的新しい。埃が積もっていない……念のため着けた手袋で、それをつまみ上げる。
「……これは?」
正方形に近い形で、一辺はおよそ4センチほど。表にも裏にも何も書かれていなかったが、打ち捨てられたというには不自然な置かれ方をしていた。
何より、一般的な紙とは感覚が違った。硬い。単に石や鉄といった無機質な硬さではなく、ユポ紙のような柔軟性を併せ持った頑健さ……これは一般の市場に出回っているものではないだろう。
(……もしかしたら)
加奈はやや小走りに、ドアのある通路まで戻った。紙を折り畳んで、ドアノブの上の鍵穴に突っ込む。
ガチャ。不思議なことに、それは回さずして開いた。紙がひとりでに動いたようにも思えた……加奈はドアを押し開けた。不気味な
「……っ」
部屋は
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