ひとり
お祝儀っていくら包めばいいんだろう。
お風呂上がりのぼんやりした頭でそんなことを考える。
5つも下の
ベッドに寝転がりながら、「従兄弟 ご祝儀 相場」などとスマホの検索欄に打ち込んで、調べる。2万円から5万円。忌まわしき年功序列はここでもハバを利かせ、年が上がるほど多く包まねばならないという。ちくしょうめ。
従兄弟は22かそこらだ。2万円でいいだろう。ひとつ悩みが解決し、私は大の字になって。
30間近なのに、浮いた噂の一つもない己の顔を覆った。
「――だってだってだって! 高望みもしてないし自分磨きもしてるし! がっついてる風にもしてないしお局さんになるつもりもないし! 先輩にだって媚びるでも逆らうでもないし、同僚にだって後輩にだって優しいし! これ以上私に何を求めるっていうのよみんな‼」
そういう態度だからだめなんですねわかります。いや、わかりたくなんてない。この際男でも女でも人外でもなんでもいいから、燃えるような恋、身裂け血肉迸るようなパッショネイトな恋をしたい。180センチもあるウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、私は拭いようのない虚無感に浸った。そのままでいるとなんだか泣きそうだったので、無理矢理照明を落として寝た。
「朝……………」
起きてすぐの肉声が欲しい。テレビや会社の挨拶の「おはよう」ではない、真に私だけを思って私だけに投げられた「おはよう!」が欲しい! この際ホント誰でも…AIでもいいから……あれ? その手があるのか?
(いやでもそれは…)
なんか人として負けた気がする。やはり同じ人間に起こしてもらいたい。犬とか猫とかの小動物でもいいが、できればコミュニケーションがとりたい。おはようと言えばおはようが返ってくる、そういう最低限度の文化的な生活を送りたい。
そういう話を、出勤してから会社の先輩に愚痴る。先輩は困ったような顔で笑っていたが、話し続けるうちにどんどん顔が曇っていって、最終的には半べそをかきながら私の意見に同調してくれた。
「そうだよねぇ、ウチも実家が顔見せる度に彼氏はまだかー孫はまだかーお前の同級生はみんな身を固めてるぞーってうるさくてねえ」
おいおいと泣き始めた先輩を宥める。誰しも人肌恋しさに枕を濡らしているのだ。
「そういうわけで5000円に減額とさせていただきました」
「論理的に無理がないですか⁉」
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