求めて、応えて
「んむっ…………」
酸欠になりそうなほど長い接吻だった。蛇のように絡みついてくる彼女の舌をどうにか口腔外に追い出し、私は垂れ流しになっていた涎をティッシュで拭った。
「飽きたの?」
潤んだ
「もう……!」
「ごめんなさい……っ」
謝る彼女をまた撫ぜる。可愛いのは確かだが、本当に甘えん坊というか、加減を知らない大型犬のようだ。私と同い年……つまり今年で22になるはずだが、その片鱗は未だ見えない。
高校生まで義父と実母に虐待を受けていたらしい。私が「引き取った」直後は、全身に生々しい傷痕があった。彼女の両親……親とも呼びたくない奴等だが……はまるで、老いて世話が面倒になった病気の老犬を押し付けるように、彼女を厄介払いした。あそこで一発ぶん殴らなかった理性に関してだけは褒めてほしい。それほどに酷く……要するに、彼女は人間扱いを受けていなかった。
彼女の両親はなんやかんやとあって結局捕まったが、それが彼女の傷を癒やすことにはならなかった。自傷癖もあった。爪で引っ掻いたミミズ腫れが、二の腕にも脹脛にも、至るところに無数に走っていた。
私は毎晩のように居もしない誰かに向かって謝り続ける彼女を抱きしめ、キスを落とし、壊れたラジオのように自嘲を繰り返すのを宥め……貴女は愛されるべきだと、疎まれて生まれてくる子などいるはずがない、すべて忘れて私だけを見てと、泣きながら説いてきた。時にはそれが、身体の関係になることもあった……他に手立てはなく、私も必死だった。彼女が流した涙の数だけ、私も痛みを背負うつもりだった。
それがどうしてこうなった。好かれることを悪しとはしないが、それはそれとして、である。依存はよろしくない……しかしながら彼女の屈託のない寝顔を見ていると、庇護欲と性欲が同時に襲い掛かってくる。
このままではダメだ。私は彼女の脳みそをピンク色にするために付き合い始めたのではない。しかしながら求め合う心に嘘もつけない……。
私は寝返りを打った。幸せならピンク色でもいいじゃないかと思い直して。
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