快眠業者 Ⅳ

「その彼の居場所はわかる?」

「いいえ、まだです……ただ彼が、パチンコ店の売上金を盗んで逃走しているということしか」

 加奈かなは俯きながらそう言った。警察がやれば早く済むのだろうが、関わり合いになりたくない、と思うよりも、これ以上磯村いそむらに罪を犯してほしくない、という優しさがあった。

「あの……飛び込みで来ておいて今さらですけど、今この場にいない人を眠らせることって」

「原理的には可能よ。ただ時間も大まかな場所もわかっているあなたのような場合と違って、見も知りもしない相手の睡眠に干渉するとなれば、当然難易度は段違いになる」

 無茶な依頼をしているのはわかっている。わかっているが、気がついたら店長をぶん殴って金を奪って逃げていたという相手を野放しにしておいても、誰も幸せにはなれないだろう。

 だから加奈は、加奈にしかできないことをやっている。

「……お願いします。お金ならここに」

現金キャッシュで2万。できる?」

「……5万あります」

「3万5000で」

「増えたな⁉」

 一人暮らしには手痛い出費だが、ほぼノーリスクで犯人を確保できると思えば安いものだ。加奈は出されたトレーに万札を載せた。

 それを認めた快眠請負人はどこからか水晶玉を取り出した。本当にあるんだ、と内心驚きつつ、その手先を見つめ……。

「……気が散る」

「すいませんっ気がつかないで!!!」


 快眠請負人は、よくテレビで見る占い師がそうするように水晶玉に手をかかげ……何やらぶつぶつと呟きながら時折手を合わせたり組んだりしていた。ただ水晶玉に触れることだけはなく、緻密に、慎重に。

「……見えた」

 残留思念のようなものだけれど、と前置きして、快眠請負人はぽつぽつと喋り始める。

「山奥……だと思う。犯罪者が身を隠すにはぴったり……これは…車? 携帯電話……あなたと話していたものね……地理まではわからないけど……そう遠くには行っていないはず」

「……」

「これだけの情報で、対象を眠らせるのは少し難しい。もう少し決定打になるようなものはない?」

「……アテになるかはわかりませんが」

 実名でSNSをやっていたはずだ。さっき検索して見つけた。といっても投稿はないに等しかったが……ここから手がかりを見つけるというのなら、警察が先んじるだろう。しかし快眠請負人は、加奈が開いた画面を見た瞬間に目の色を変えた。

「……完璧だ」

 とりわけ低い声で、しかし高揚の伝わる声音で、彼女は言った。言葉は少ないが、興奮していることがわかった。

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