夢とキミと

 ただ荒涼とした原野に佇んでいる夢を、最近よく見る。

 それはSF映画のようで、見たことがあるようなないような、どこまでも寂寞が拡がっていて……それなのに、何故か懐かしいような気持ちにさせられる、そんな夢で。


 目が覚めると、築十年のワンルームのアパートだった。台所からは湯の沸く音が聞こえている。

りん? 起きた?」

 エプロン姿でおたまを持ったおりが、部屋の入り口に立っていた。

「うん……」

「あり? なんか放心状態じゃない?」

「……あぁ……例の夢、見てね」

「例の夢?」

「鍋、吹きこぼれてるよ?」

「うわわわわ⁉」

 彼女は慌てて、コンロの前まで駆けて戻っていった。


「よく見る夢ってあの、禀が荒野に立ってる……ってやつ?」

「そうそう。なんか心の原風景みたいなやつ」

「そんな感じなの?」

「美織も見てみればわかるよ」

 もっとも、見たところで意味を理解できるわけではないけれど。

「ふーん……でも夢占いの人もわからないって言ってたんでしょ?」

「うん。なんだったかな、迷っていることがあるとか、何か大きなトラブルに巻き込まれて混乱するとか……そんな感じのこと言われたけど、心当たりあんまりなくて」

 ごく普通の家庭で育ち、ごく普通に小中高と卒業し、そして今は美織とごく普通のルームシェアをやっている。そんな夢との縁はなさそうだ。


 この夢とはかれこれ2年来の付き合いだ。わりと最近……美織と知り合ったのもそれくらいの頃だった。彼女に原因があるとは思えないが、さりとて無視できるわけでもない。

 このことは、なんだか悪くて本人には言っていない。美織が夢に出てきたこともないし、別の原因があるのかもしれないから、と。


 なるべく考えないようにしていたのに、また夢を見た。夢の中の私は、あぁ、まただ、と半ば慣れ、諦めていて……歩いても叫んでも、夢の荒野に何も変わりはなく、ただ枯れ草だらけの痩せた高原が、どこまでもどこまでも……地平線の果てまでも続いているだけだった。

 明晰夢だけど、そこから醒められることも、醒められないこともある。どうせなら現実では言えないことを叫んだりしてみよう。原因がわからなければ、なんでも試すのだ。例えば――。


「……禀?」

「…どしたの…? まだ4時だよ?」

「い、いやそうじゃなくてさっきの寝言……ありがとうとか、好きとか……聞き間違いじゃなかったら、わたしのこと」

「……もう一回寝るから起こしてね」

「ちょっ、禀! あっ耳真っ赤になってる!」

「うるさい!」

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