深夜徘徊

今日も今日とて家を出る。時刻は深夜の0時半、私の趣味は深夜徘徊。動きやすいスニーカーに蛍光ジャージ、野球帽と人相隠しのサングラス。通報されたら空が白むまで帰してくれなさそうな出で立ちだ。

角を曲がって陸橋を渡り、坂を登り、児童公園を横切り、階段を降りてタバコ屋の角からため池に向かい、再び陸橋を渡って家に戻る。昼間とは表情を変える景色たちが、不気味なようでいて、魅力的でもある。

公園に足を踏み入れると、ベンチの上に先客がいた。よもや死んでいるのでは、と最初はぎょっとしたが、近づくといびきが聞こえてきたので盛大に胸を撫で下ろした。

「あのー……」

おそるおそる声をかける。少なくとも今は生きているみたいだが、秋も深まるこの時節、朝まで冷たいベンチに寝転がっているのはキケンだ。

反応はない。肩を叩いてみる。相手はふごっ、と息を漏らし、かなり驚いた様子で飛び起きた。女性だ、しかも若い。

「あ、あれ? 私なんで……?」

目を覚ました彼女は大いに狼狽していた。

「一先ず、起こしてくださってありがとございます。凍死するところでした……それで、あの」

声をすぼめて頬染めて、彼女は私に、最寄り駅の終電はもう出ましたか、と訊ねた。私は忸怩たる思いで頷いた。

「――あぁ」

彼女は天を仰いだ。さながら宗教画のような構図だったが、ところどころが汚れたスーツでは無理だろうなと思った。顔立ちが整っているだけに勿体ない。そんなことを言っている場合ではないが。

「あ、あの……よろしければうち、来ます? 二人分の布団くらいならありますし」

このままだと燃え尽きた灰みたいになりそうだったので、一応提案してみた。

「いいんですか? ご迷惑になりませんか?」

「そんなそんな! なんなら朝ご飯も食べて行っちゃってください、お風呂も貸しますよ? さすがに電車代とかはムリですけど……」

「あ……」

彼女の顔に生気が戻り始めた、かと思うと。

「ありがとおおぉ……!」

思いっきり抱きしめられた。お、おう……こうやって誰かと密着するのも久しぶりだな。

感動のあまり泣く彼女を宥めつつ、私は、いや私「たち」は家に戻った。


「ありがとうございます! このご恩は一生忘れません‼」

朝になってなお陳謝を続ける彼女に苦笑いしつつ、駅までの案内地図を渡して別れた。何かの縁とばかり、電話番号も交換した。一期一会の精神は大事にしなければなるまい。

私は妙にすっきりした気持ちで、二度寝としゃれ込むことにした。深夜徘徊は体力を使うのだ…………。

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