商戦
やられた。
タカを括っていたといわれればぐうの音も出ない。要するに油断したのだ。競争の激化が落ち着いてきたタイミングを狙われた。
「でもインターンの学生使うか普通⁉」
即座に大学と本人たちの両方に連絡を入れたが知らぬ存ぜぬの一点張り。他社の企業スパイから依頼されたか。千紘を商品企画部と知る人間なら、これくらいのことはできる。タイミングとしては、千紘がトイレに席を立った一瞬か……机の中に仕舞い込んだデジカメを探られたと見ていい。
「くっそー……」
千紘は社内では優秀な人材であるが、同時にその奔放さゆえに敵も味方も数多い。彼女に恨みを持つ人間が同業他社に引き抜かれる形で会社を辞し、そこでスパイとなるケースならやや突飛ではあるが無理のない話ではある。
大学生のガキだからといって容赦するつもりもないが、実のところ被害届を堂々と出せるほど公明正大でもない、というのが実情だ。いろいろとあくどいことをやってきている。さりとてこのまま泣き寝入りするわけにもいくまい。
「流石にまずいですよね、これ」
社長と話し合う。
「何が入ってた?」
「データとかは既にパソコンに打ち込んであります。ただ、商品のデザインのラフ画とか、生産工場の外観とか内装とかは丸ごと……」
「……やばいな」
「ですよね?」
社長は眉間にシワを寄せた。社長も千紘が社に必要な人間であることも、社が過激化する経済戦争のさなかにあるということも理解していたから、必要以上に彼女を責めたりはしなかった。
代わりに、かなり非人道的な作戦を打ち立てた。
「こんにちは! ACEコーポレーションでーす! 当社ではインターンシップを募集しておりまーす!」
架空の社名を名乗り、大学門前でパンフレットを配る。パンフレットを受け取った学生のうちの一人、油断の多そうな奴を狙ってGPS発信器をこっそり取り付け、尾行。人気の少ない場所に来たタイミングでワンボックスカーに連れ込む。拉致だ。
「ごめんねぇ、乱暴で」
出刃包丁を向けられた学生は怯えている。致し方ないことだ。千紘はダクトテープを取り出した。
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