人形遣い

 セシリーは村では有名な人形遣いだった。

 銀の髪、陶器のように白い卵顔、鳶色の瞳、小さい鼻、形のいい唇。どれをとっても人形か、いやそれ以上に綺麗で愛らしい女の子だ。

「私はね、この世界でさいきょうの人形遣いなのよ‼」

 セシリーはことあるごとにそう大言した。確かに彼女は魔術全般、こと人形を扱うことに関しては神業ともいえる腕前を有していた。それでも世界一なんて有り得ない……と、心のどこかで彼女の言葉を戯言だと思っているフシがあった。


 私はよく、村外れのセシリーの家に遊びに行った。

「よく来たわね!」

 セシリーの態度は子どもらしい尊大さに溢れ、自信のある視線は私を大いに癒やしてくれた。そういうとき、ついつい頭を撫でてしまいたくなるのだが、その度にセシリーは憤慨した。それもたいそうかわいらしく。

「セバス! 客人にお紅茶をお出しなさい!」

 セシリーがぱちり、と指を鳴らすと、部屋の隅にいた男性人形が動いて、並の人間よりも綺麗な所作うごきで茶を淹れる。その精密さは見事の一言だったが、それ以上にその間、ドヤ顔を続けているセシリーのほうが目の保養になった。そしてそのことを口に出せば、またセシリーはぷりぷりと怒ってみせるのだった。

 私は何故かセシリーを好いていて、友だちを持ちたがらないセシリーもまた、私のことを気に入ってくれているようだった。



 ある日、村が山賊団に襲われた。私の家にも火が放たれ、どうにか逃げおおせたものの、私の脳裏にはセシリーの顔が浮かんでいた。

 私は危険も顧みず、一目散にセシリーの家へと走った。人形は燃えやすい。もし気づくのに遅れたら? 眠っていたら? 最悪の想像ばかりが過る。無事を祈り、人波に逆らって走り続ける。

 が。

「ッ‼」

 燃えていた民家の建材が、音を立てて崩れる。まずい、と思ったときには遅く、私は巻き込まれ――気づくと、右腕を挟まれていた。

(そんな……!)

 押しても引いても動かない。なぜか痛みは感じなかった。頭の中にはセシリーの笑顔だけがあった。

「セシ…リー……っ!」

 強引に腕を引き抜く。きっとズタズタになっているだろう……かまうものか、セシリーに会うんだ、セシリーに……。

「え」

 。文字通りに……血も出ていない。ただ肘から先が消失して……断面には、綿が詰まっていた。

「ここにいたのね」

 聞き覚えのある声だった。否、ずっと低くはあった。

「私の。こんなところで死んじゃダメよ?」

 世界最強の人形遣いは、燃える村を背に歯を見せた。

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