異世界ひとくい物語

作者 荷葉詩織

56

20人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

天才薬師ローズマリーと穏やかな暮らしを送っていたセージ。
受験と自身の名前に悩みつつも平凡な高校生活を送っていた架音。
彼らの日常は、ある日を境に一変する――『オグル』という災厄によって。


異世界転移によりもたらされた呪い『オグル』を巡る物語です。
これぞダークファンタジー……そう言えると思います。
『オグル』という呪いの悲惨さのみならず、そこから端を発する登場人物達の葛藤が丁寧に描かれているのが、非常に胸をえぐります。さりとて、決して絶望しているわけではない。

呪いにかかる人間にも、呪いを振りまく人間にも穏やかな生活があって、感情がある。それらを丁寧に描いているからこその、呪いによりもたらされる深い哀しみ。この、光と影を上手く描き分けている作品ではないでしょうか。
(特にローズマリーが呪いに対して啖呵を切るシーンは、鮮烈で美しく、強く心に焼き付きました)

第一片から散りばめられた『オグル』を巡る謎。暗躍する謎の敵。ローズマリー、セージ、架音を始めとする登場人物達の旅の行く末。どれをとっても気になるものばかりです。
重厚なダークファンタジーをお求めの方、ぜひ一度、お読みくださいませ…!

★★★ Excellent!!!

とても読み応えのある、重厚なファンタジーです。例えるならば、様々な綾糸をより合わせ、緻密な計算の元、織り上げられていく極彩色の織物のような。
この物語では、様々な理不尽さに直面する人々が描かれています。皆がそれぞれ「生きる意味とは何か」を考え、苦しみ、もがきながらその答えを見いだしていく。
ある者は自らの役目を全うし、ある者はその答えを次代に継いでいくことで、生きる意味を果たす──その根源にあるものは、世界に対する慈しみ、愛情である。そんな気がします。
厳しくも優しく、そして悲しみが織り交ぜられたこの世界の行く末から、目が離せません。続きをとても楽しみにしています。

★★★ Excellent!!!

最近は読者の予備知識に頼った作品が良しとされる中、この作品では情景描写や設定面などファンタジーの細部が書き込まれています。
そんな濃厚なファンタジーを読みたい方に勧められる作品です。
それに複数の登場人物たちの視点切り替わりが多く、どのようにそれぞれが世界に関わっていくのかも楽しめます。

このようなきちんとしたファンタジーが無くならないでいてくれると嬉しいです。

★★★ Excellent!!!

 やはり荷葉詩織、余すところなく『絶望』を振りまいていく。
 
 物語というのは、結局のところ『作者』の描いた世界です。そして、場合によってはとんでもない『理不尽』を描くことになる。
 無惨に死んでいく人々。自分ではどうにもならない『呪いのような枷』。
 そして、在りし日の戻らない、何でもない日常。

 この物語を構成する要素は数あれど、『理不尽』を大きく描いていることには間違いありません。
 異世界、まったくの異世界を描いているものの、描かれる感情は私たちの現実でも起こり得るありふれたものばかり。親近感。共感。そのような心を持たずにはいられません。
 度し難くも、抗う人物たちのその強さ。儚くも手を伸ばせない人物たちの弱さ。

 そういうものが、すべて詰め込まれると、このような作品になるのでしょう。
 一見、ひどすぎるお話かもしれません。でも、よく読んでみてください。
 人間が持つ痛み、心に宿る動きがそのまま、そのままに映し出される凄みが感じ取れるはずです。

 さあ、物語を始めましょう。飛び込んで、ありのままに感じて……。


 とはいったものの、やはり度し難すぎるぞ、荷葉詩織。結局はテメーの性癖ぶちまけただけじゃねぇかッ!?

 作者の思いがいろんな意味で『詰まっている』小説です。どうぞ。

★★★ Excellent!!!

既に最初から、鬼〈オグル〉と成り果てたセージを治す、という物語が始まっていた。

そう、長々と引っ張らず飽きさせない物語の構成。だからこそのスピーディーな展開。
予想を遥かに越え、主人公たちを翻弄する悪夢のような現実と、そのなかに挟まれるコメディのような休息。
そして魅力的なキャラクターたち。

読む者を絶対に飽きさせないこの物語を、貴方もぜひ、ご覧になってください!