◇最終◇僕の決断

 一番最初にルイユの泣きそうな顔が見えた。その横には、泣いているイラーノ。ロドリゴさんにアベガルさん。ジーンもリリンもいた。そして、僕を囲う皆の上に影を落とす様に、上からのぞき込んでいるキュイの大きな瞳。


 「よかった。目を覚ましたか」


 ロドリゴさんがそう言うと、よかったぁっとイラーノが更に泣き出した。


 「主様……」


 「大丈夫だよ、ルイユ」


 もう君は、死ななくていいんだ。


 「心配かけてごめんなさい。あ、イラーノがヒールしてくれたんだよね? ありがとう」


 イラーノは泣きながら頷いた。

 ルイユに支えられながら僕は、上半身を起こす。


 エルフ達はたぶん、死んでいる。


 「こうするしかなかったのです。彼らを生かしておくと、剣の存在が知れますので」


 いや、彼らは僕の中に魔女が封じられていると思ったんだ。だから僕を殺そうとした。そしてそれは、真実となった。


 「よかった。目を覚ますと、こういう状況で驚いた。話は聞いた」


 安堵したように、ロドリゴさんが言う。


 『また同じような目に遭うなんてブーブーブーブー災難だわブーブーでも今回はブーブー前の様に強力ではなかったわねブーブーブーブー


 リリンが、膝の上に登りながら言った。そのりりんを優しく撫でる。


 「ごめんね、リリン。ありがとう、みんな」


 「しかしまさか、馬ごと落とされるとは思わなかった」


 そう言ってアベガルさんが振り向く。その先には元気な馬がいた。


 「クテュール、この剣はやはりキュイに預けておこう」


 「ロドリゴさん……ありがとう」


 「まて、そいつってあれだろう? 街を襲いに来た奴じゃないか! 剣をそいつに預けるだって!?」


 アベガルさんは、目を丸くした。


 「モンスターに預けるぐらいなら俺が預かる!」


 「いやダメだな。馬から落ちたぐらいで気を失う奴には預けられない!」


 「何だと! お前の息子を助けたというのに、何だその言い方は!」


 「それには感謝している」


 二人は、僕を挟んで睨みあっている。

 アベガルさんが気を失ったのは、落ちたからだけじゃないと思うけどね。


 『すまなかったギャウギャウ自分が対処しなくてはギャウギャウいけなかったのにギャウギャウ


 「ううん。助けてくれたありがとう、キュイ。ジーンもありがとう」


 「さて、早く帰らないと、あのお転婆が煩いな」


 アベガルさんが立ちあがる。


 「あぁ、そうだ。こいつらの処理は、頼んだぞ。俺は、ノータッチな」


 「あぁ、感謝する」


 アベガルさんは、馬に乗りフッと浮き上がり、街へと向かって行った。


 「随分とあっさり引き下がりましたね」


 「剣の居場所がわかっているからじゃないか? 彼なら飛んでここに来れるからな」


 ルイユの言葉に、アベガルさんが静かに返す。


 「あ、そっか。飛んで来れるんだ」


 イラーノはもう泣き止んでいたけど、目が真っ赤だ。


 「釘を刺しておくさ。クテュールじゃないと外せない封印が施されているってな」


 そう言ってアベガルさんが、剣を僕に渡してくれた。

 もう魔女がいない封印の剣を。


 「うん」


 僕は、剣を受け取ると立ち上がりキュイに近づく。


 「ごめんね、付けたり外したりして。これ、アクセサリーだと思って」


 『必ず守ろうギャウギャウ


 キュイの首にまた剣が封印された。


 「しかし、この場所はあの三人のエルフしか知らないのか? 知らせてはいないのか?」


 「わかりません。応援を呼んでいる可能性もありますが、それはこの森に対してでしょう」


 ロドリゴさんの台詞に、ルイユが答えた。

 たぶん、ここにはたどり着けない。なぜなら魔女は剣の中にはいないから。あのオーブみたいので魔女を追うなら僕を追って来るはずだ。

 だからすぐに離れた方がいい。


 「ロドリゴさん。僕は、このまま旅に出ます」


 「何を言っているんだ? 狙われているんだぞ!」


 「次は、必ずお守りします」


 「変な結界まで扱える相手が追って来ると言うのに、それに対処出来てないだろう」


 「それについては、考えが甘かったのです。探しているのが剣だと思っていたのですが、結界を張る為の魔力の確保場所を探していたようです」


 「……一つだけ言っておく。お前が死ねば。クテュールも死ぬ。この意味わかるな?」


 「はい。死なずに死守します」


 真剣な顔つきで、ルイユはロドリゴさんに返す。


 「それって旅に出る事を許すって事?」


 僕が聞くと、ロドリゴさんは頷いた。


 「あぁ。ただし随時連絡を入れる事。それが条件だ」


 ルイユは、わかりましたと頷く。


 「ありがとう、ロドリゴさん」


 「本来ならついて行きたいが、ギルドマスターとしての仕事があるからな。君達の手助けは、彼に任せるさ」


 「彼って、アベガルさんの事?」


 イラーノ問いに、ロドリゴさんは頷いた。


 「彼は、結構面倒見がいいみたいだからな。利用させてもらうさ」


 「イラーノ、ロドリゴさん、ありがとう」


 僕は、深々と頭を下げた。


 「何、改まって」


 イラーノが少し照れて言った。たぶん、今回の事のお礼を言われたと思ったんだろう。

 これで二人とはお別れだからお礼を言ったんだけどね。


 「あ、僕はジーンに乗って行くから、ルイユ、二人をお願い」


 「はい。わかりました」


 僕の言葉に近づいてきたジーンを撫でる。そして、ルイユに近づいた。


 「二人を置いたらすぐに戻って来て」


 ボソッと僕はルイユに言った。


 《わかりました》


 ルイユが二人を脇に抱え、浮かび上がる。僕は、大きく手を振った。二人も手を振ってくれる。


 「さようなら」


 見えなくなるまで二人を僕は見送った。


 「ジーン、リリン、一緒に行かない? 僕は、ひっそりと生きる事にしたんだ」


 『仕方ないわね。お供するわよ』


 『ついていく』


 リリンとジーンは一緒に来てくれる様だ。ジーンなんて、しっぽが見えないぐらい高速で動いている。僕は、二人のチョーカーを外した。それからこの場所に隠してあったマントをジーンに付ける。


 「お待たせしまた」


 ルイユが僕の横に降りた。


 「宜しいのですか?」


 ルイユは、僕がイラーノ達を置いて出発する事に気づいたみたい。


 「うん。決めたんだ。ルイユも本来の姿に戻っていいよ」


 「わかりました」


 モンスターに戻ったルイユを抱き上げる。足元には、冒険者の証とミサンガ落ちているがそのまま置いて行く。


 「キュイ、お願いがあるんだ。もしイラーノが来たら伝えて。母さんをお願いって。そして、ごめんねって」


 『わかった。伝えておこう』


 「さあ行こう。二人を置いてすぐに戻ったからきっと、アベガルさんに頼んですぐにここに戻って来るよ」


 リリンも抱き上げ、ジーンにまたがった。

 ジーンが走り出す。


 「たまに戻って来るからね~」


 『楽しみに待っている』


 『主様、何かあったのですか?』


 「何もないよ。ただチュトラリーを堪能するのさ。ずっと一緒に居よう」


 『はい。主様』


 ジーンは、森の中を縫うように駆けて行く。

 みんなで、最後の時間ときを過ごそう。僕の中にいる二人も一緒に。


                 完

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モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる! すみ 小桜 @sumitan

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