◇206◇奇襲訓練

 僕、エルフ達を助ける事になっているけど、そうして大丈夫なんだろうか?

 今更だけど、エルフが探しているのってチュトラリー僕自身って事ないよね?

 情報が間違ってエルフ達の間で流れていて、人間の女性がチュトラリーになった。そして、僕が死ねばエルフの誰かがチュトラリーになれると思っている……とか?


 《主様! 今すぐ街を出て下さい! 何故かエルフと一緒に、モンスターがそちらに向かってます!》


 「ルイユ!?」


 突然ルイユから連絡が来た。待ち望んでいたけど内容が街に襲撃!? それってやっぱり僕を狙って?

 ここから出ないと、皆に迷惑を掛ける!

 僕が慌ててベットから降りようとすると、イラーノに抱きしめられた。


 「クテュール落ち着いて! 俺もルイユも大丈夫だから、ね」


 そして、ボソッとイラーノは呟く。


 「……もしかして、ルイユから連絡が来た?」


 ハッとして、僕は小さく頷く。

 ロドリゴさんにも言われていたのに、隠しようがない行動を取ってしまった!

 イラーノがそっと僕を離す。

 アベガルさん達が、僕をジッと見つめている。今ので誤魔化せているといいけど。


 トントントン。

 ドアがノックされ、慌てて騎士団の人が入って来た。


 「失礼します」


 入って来た騎士団の人は、真っすぐにメリュドガさんに近づき耳打ちする。


 (大変です。モンスターが街に向かって来ています。エルフの姿もあるとも。今、冒険者を集めて街の外に配置しました)


 (そうか。わかった)


 ルイユの言う通りだ。

 メリュドガさんは、チラッと僕達を見た後、アベガルに近づく。


 「何があった?」


 「とうとう、本性を現したみたいだ」


 そう言うと僕達に背を向けて二人は話し出した。これじゃ、話している内容がわからない。


 「では、ここを頼んだぞ、アベガル」


 「あぁ。気を付けてな」


 メリュドガさんが、部屋から出て行った。


 「何かあったの?」


 「お前達は、大人しくしていろ」


 そう言うとアベガルさんは、窓から外の様子を伺っている。

 イラーノも気になったのか、窓に近づき外を見た。


 「何が起きたの? 明らかにここを警備してない?」


 「奇襲訓練だ。モンスターなどが攻めて来た事にして、定期的に訓練をしている」


 そうアベガルさんが答えた。

 イラーノが、僕をチラッと見る。

 たぶん、訓練じゃなくてモンスターが攻めて来たとわかったんだと思う。ルイユがそれを連絡してきた。

 僕は、そうだと頷く。


 「お前達も指示に従えよ」


 「……わかったよ」


 トントントン。

 またドアがノックされ、騎士団の人の後ろにコーリゼさんが続き入って来た。


 「お連れしました」


 「ありがとう」


 騎士団の人が部屋を出て行った。


 「どういう事だ?」


 コーリゼさんも変だと思ったみたい。


 「奇襲訓練が始まった」


 とアベガルさんが言うと、コーリゼさんが僕を見た。


 「彼は、大丈夫なのか?」


 「休んでいれば大丈夫だそうだ」


 「モンスターが襲ってきた事にしてだって。それにしても変だよね。普通それなら、ここじゃなくて住民を守る配置するんじゃない?」


 イラーノが、アベガルさんに言う。

 確かにそうだ。狙いは、イラーノだと思っているんだろうけど、この街をモンスターで襲うって事は、無差別になると思う。


 「ここで待機しているだけだ」


 「本当に訓練なのか?」


 疑問に思ったコーリゼさんが問う。


 「他に何がある?」


 「例えば、そこの二人を殺し損ねたので、ルイユと言う者が襲いに来た。違うか?」


 「違う!」


 「ちょっと、クテュール。落ち着いて」


 僕が答えたので、慌ててイラーノが止める。


 「いや、その通りだ。正確には、エルフ達だがな。ルイユが、エルフに伝えたのだろう」


 「どうして! さっきルイユとエルフは繋がってないって言う話になったよね!?」


 「そうだと思ったんだが、どうやら俺達の読みの方が正しかったようだ」


 「ルイユは、関係ないから!」


 そう言うと、アベガルさんが僕をジッと怖い顔で見つめた。


 「お前、本気でそれを言っているのか? 他人を巻き込んでいるのにか!」


 「………」


 アベガルさんの言葉に僕は答えられず俯いた。

 ルイユが仕向けた事じゃないのは確かだ。でも狙いは僕じゃないとは言い切れない。


 「……じゃ、僕が死ねば解決する?」


 「何言ってるの!」


 僕の台詞にイラーノが驚く。

 いや、二人も驚いていた。まさかそんな言葉が返って来るとは思っていなかったんだろう。


 「アベガルさんは、どうしてそこまでしてエルフがイラーノを狙うと思っているの? 彼らが狙っている人物を知っていると思っているから? でも、こんな事までする? 今まで隠していたんだよね? エルフが殺そうとしているのは本来、男装した女性でしょ?」


 「エルフが、殺そうとしている女性?」


 コーリゼさんが、驚いたようにボソッと呟く。

 そうだった! 彼がいるんだった。

 アベガルさんは、はぁっとため息をつく。そして頷いたのだった。

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