◇202◇敵か味方かわからない

 アベガルさんは納得していないみたい。眉をひそめている。


 「で、それはどんな物だ」


 そうアベガルさんが言うと、イラーノが僕のリュックを手に取った。

 驚いていると、リュックの中から女性に見える外套を取り出す。


 「これをクテュールが着る様に言われていた。そして、三時間森で待っている様にと。何をするのかは聞いていなかったからルイユが現れたって聞いて驚いたよ」


 「貸せ」


 そう言ってアベガルさんは、外套をイラーノから受け取った。

 伸ばしてみたり裏返してみたり、色々確認をしている。

 そして、何故か僕の方へと突きつけた。


 「着てみろ」


 「え……」


 目の前に座る二人がジッと見つめる。横を振り向くと、イラーノが頷いた。

 仕方なしに、羽織る事にする。

 血で汚れた外套は、脱いでいた。


 「これはまた、柔らかい雰囲気になったな。お前が着た所を見なければ、女性だと思っただろう」


 「ずっと不思議だったのよね。あなたの外套を私が着たから何を羽織ってっと思っていたけど。なるほどね」


 二人は、うんうん頷きながら言った。

 女性に見える外套だったんだと、二人は気づいたようだ。


 「で、この外套の効力はこれだけか?」


 「さあ? 俺も知らないから……」


 何故かじーっとイラーノも僕を見ている。

 やっぱり僕が女に見えるから変なんだろうか?


 「で、クテュールは言われた通り森で三時間もぼーっとしていたのか?」


 「………」


 取りあえず何も答えないでおこう。

 アベガルさんの質問に僕は、そっぽを向いた。


 「それにしても随分と素直に話すんだな」


 アベガルさんが、イラーノに言った。アベガルさんの言う通り、かなり協力的だ。


 「俺、毒で殺されかけたんですよね? ルイユに従っていたのは、一応恩返しだよ。彼女の目的がどうであれ、俺の本当の父親に会わせてくれたからね。そして、街にモンスターが来た後も従っていたのは、直接彼女に会いたかったから。ちゃんとお礼を言えてなかったし。でも流石に……ね」


 僕は、イラーノをジッと見つめる。

 毒で殺されかけたと聞くまでは、芝居をしていたと思う。でも、聞いた後は、本当に芝居?

 凄く協力的なのは、芝居じゃなくて本当に協力しているとしたら?

 ロドリゴさんに迷惑を掛けたくないから僕がテイマーだと言う事は言わないだろう。

 でも、ルイユをはめる手助けとかするかもしれない。

 ――イラーノが敵か味方かわからない……。

 いや、もしアベガルさん達に協力するとしても仕方がない。殺されかけたのは本当なんだから。

 あくまでもあれは、僕を助ける為の行為。

 もしイラーノが、アベガルさん達に協力したとしても彼を責められない。


 「ところで、コーリゼさんは?」


 イラーノが聞いた。


 「彼は、我々の馬で先にブツゴゴチに向かった。まあ着いたらすぐに取り調べだけどな。君達をつけ回していた理由を聞かないとな」


 「あの人、隠す気あるの? ってぐらいわかりやすく俺達をつけていたけど……。それがワザとなのか、それとも尾行した事がなかったのか」


 「わからないが、危害を加えようとしていたわけではなさそうだな。さっきチラッと聞いたが、エルフについて聞きたかったようだ。どうしてそんな事を聞きたいのかを言わないのだ」


 そう言えばイラーノに接触して、エルフの事を聞いたんだっけ?

 しかし、そんな事を聞いてどうするのだろう。


 「ふーん。大金まで払ってこの馬車に乗り込んだわけってそう言う事。しかし、余程知りたいのね。で、エルフの事について話せる事ってある?」


 「知っているも何も俺とクテュールは、俺の父親に会いに行っただけだから。俺もエルフの事については、何も知らない」


 「まあ、彼の事は俺達に任せるといい」


 「イラーノくん。私のお手伝いはしてくれるのよね?」


 「勿論。その為についてきたんだからね」


 「だったら今回は、クテュールくんも雇ってもいいわよ」


 「どうする?」


 「……うん。考えてみる」


 イラーノに問われ、僕はボソッと答えた。

 何か、まともにイラーノの顔を見れない。


 「うん? 一緒にこっちに来たのってマドラーユの仕事の手伝いなのか?」


 少し驚いたように、アベガルさんが聞いた。


 「誰かさんが、私の仕事を奪ったからね。イラーノくんは優秀だから引っ張ってきたのよ」


 「そうだったのか。しかし、錬金術師なら普通、護衛ぐらいつけるものだろうに」


 「あら目の前にいるじゃない」


 「………」


 アベガルさんが、僕達を見た。


 「お前、ケチるとそのうち命を落とすぞ……」


 「ご忠告ありがとう」


 そうマドラーユさんは、アベガルさんに返す。

 たぶん護衛は、僕達じゃなくアベガルさんの事だと思う。

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