◆135◆善意か悪意か
はぁ……。
膝を抱えさっきから隣に座るイラーノがため息ばかりしている。
僕達は、話を聞いてから青い鳥に宿をとった。今日は、照明ありの部屋。
窓があるかと思ったけどなかった。部屋の奥にランプが置いてあるだけ。
「あ、あのさ。明日は怪我人来るかもよ?」
「来ないよ。戦争や狂暴なモンスターがいる所じゃないと、ヒールを使う事なんてないよ」
「あ、じゃ、違う仕事探してみる?」
「……俺に何が出来るんだ」
何がって僕に聞かれても。
「今までしていた仕事をこっちでも探せばいいんじゃない?」
「それこそ無理だよ。お父さんの口利きで、病院の仕事をさせてもらっていたから。勿論治療じゃなくて、色々お手伝いね。それで治癒が必要な時だけしていた。けどヒールをしたのって、ほとんどない」
知らなかった。
ロドリゴさんって、身内に甘かったんだ。
「君が羨ましいよ」
「え!?」
そんな事言われたの初めてだ!
「あのさ。暫くは、自分が出来る仕事探してみたら? 僕達パーティー組んでいるんだし、イラーノの分は暫く僕が払えばいいからさ」
「出来ても稼げないかもしれないよ? お金返せないかもしれない」
「貸すとかそういうのじゃなくて、協力しあおうって事」
「ありがとう。俺、年上なのに頼りないよね……」
何か泣きそうな顔をして言われると、僕が悪いんじゃないかって気になるんだけど。
「そんな事ないよ。信頼してるから」
「うん。頑張るね」
イラーノは、リゼタよりずっと信頼できる。
信頼と言えば、あのタリューグさんは信頼できる人なんだろうか?
「ねえイラーノ。タリューグさんって信用していいのかな?」
「え? 何突然。いい人ぽかったけど」
「うん。ほら、ムダマンスはさ……」
「え? 誰?」
「誰って、僕達を殺そうとしたテイマーの人!」
「あぁ。あの人」
「名前、知らなかったの?」
「全く知らない人だよ。あの日知った」
え? 僕より長く街にいたのに知らなかったの?
「ミーレンの事は?」
「うーん。見た事はあるけど話した事はなかったよ。あのさ。俺、冒険者だけど剣士じゃないから剣士が受ける仕事を受けたりしないし、だから冒険者でも接点がなければ知らない人の方が多いよ」
そう言えばそうかも。
ミーレンは、僕達の護衛に着いて来たから知り合った。それがなければ、知らないままだったのかもしれない。
ムダマンスだって、ミーレンが紹介するって言って顔を合わせたんだった。
商人ならなおさら会う機会なんてないか。
「で? その人がどうしたの?」
「うん? あ、そうそう。ムダマンス達は、僕がテイマーだと知っていて近づいたんだ。だからさ……タリューグさんも何か裏があって近づいているんじゃないかって思って」
「なるほどね。うーん。クテュールに近づくメリットねぇ……。タリューグさんは、クテュールがテイマーだと知らないし、知って近づいたとしても君を嵌める為じゃないと思うけど?」
「確かに知っている訳ないか」
「まあ、鑑定で確認したんだとしたら知っているかもしれないけどね」
「え!? あの人鑑定持ちなの? 何でわかったの?」
「あのね。商人ギルドで働いている人だよ。そこで働くなら鑑定持ってるでしょ普通は」
そういうもんなのか。
鑑定の存在忘れてた。
メインジョブを剣士にしても鑑定されれば、眷属がいるのがばれるからテイマーだと知られちゃうんだ!
「だ、大丈夫かな?」
「いやいや。してないと思うよ。君をテイマーだと思っていたらもっと違うリアクションだと思う。国に一人いるかいないかなんでしょ? 商人ギルドで働けるぐらいだから、鑑定のスキルのレベルは高いと思うよ。だから、人の鑑定はそうそうしないと思うけど」
「そう言えば、高いと逆に色々見えすぎて魔力が凄く消費するんだっけ?」
うんうんとイラーノは頷く。
「俺もそうなんだよね。怪我の程度が違っても魔力の消費は同じ」
「そうなんだ。なるほどね。取りあえず、タリューグさんは善意でって事か」
「まあ下心はあるけど、自分でありますって言ってるからね。そこまで警戒しなくていいんじゃないかな」
「でも何で、言ったんだろう」
「君が単純そうに見えたからかもね。恩を売れば、それに応えてくれると思ったんじゃない?」
「……な、なるほど」
確かに、ムダマンスと出会ってなければ、何も疑わず専属になったりしていたかもね。
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