◆133◆お腹いっぱいで幸せ
臭いを頼りに探すと、近くにパン屋を発見!
看板にパンの絵がかいてあり、『ふんわり』という名前のお店。
ドアを開けると、カランカランと付けてある鈴がなった。
「いらっしゃいませ」
出て来たのは、たぶん僕らと同じぐらいの年齢の少女。看板と同じパンの絵がついたエプロンをしていて、若草色の髪は後ろで一つに結っている。
「凄いよ。クリームがてんこ盛りのパンがある!」
イラーノが、ジッとパンを見て言った。
何か凄く甘そうなパンだ。フルーツのトッピングがしてある。
値段は、300Z。
安いと思ったけど、それ以外のパンは、200Zもしない。
「安い……」
僕が呟くと、イラーノも頷く。
「あの、ここって僕達でも買えますか?」
「現金払いですが、買えますよ」
僕達は顔を見合わせて頷いた。
そこからは、もうお腹が空いているのもあって、おいしそなパンを次々とトレイに乗せる。
僕は五つ。イラーノは、七つもトレイに乗せていた。
「あなた達、冒険者よね? 珍しいわね。こっち側に買いに来るなんて」
お会計に持って行くと、そう言われた。
こっちの住宅街には、警備の冒険者以外あまり出会っていない。という事は、買い物にも来ていないって事か。
「買いに来ないんですか? 安くておいしそうなのに」
僕は、質問した。
「ここで売っているのは、日持ちしませんからね。それに、冒険者達が食べるパンって中に具が入っていて、おなかのもちがいいじゃないですか。それに現金払いが面倒なようです」
あぁ。なるほどと僕達は頷いた。
冒険者地区は、冒険者の証を通して支払いをするみたいだし、それに慣れちゃうと一々お金を払うのが面倒になるかもね。
時間を掛けてこっちに買いに来るぐらいならあっちで済ませる方がいいよね。
「あのもしかして、現金で払えばこっち側の宿にも俺達って泊まれます?」
「え? たぶん。でも安くないと思うけど」
「そっか。向こうは冒険者価格なのか……」
「でも聞いてみたらどう? 宿屋一軒しかないし」
「え? そうなの?」
イラーノが驚いて言う。僕も驚いた。こんなに大きな街なのに一軒なんだ。
「ここって、産業がない街なの。だから冒険者以外あまり客がいないのよ」
それで住宅街と分けちゃったら確かに客はこないね。
「色々ありがとう」
「ううん。私。メリアーヌ。ここも宜しくね」
「あ、俺はイラーノ」
「えっと、僕はクテュールです」
「ありがとうございました」
それぞれ紙袋にパンを入れてもらい店を出た。
さて、どこで食べようかな。
「お腹空いた~。流石にここでは食べれないよね」
イラーノの言葉に僕は頷いた。冒険者地区と違い、食べ歩きしている人なんていない。
「あ! そこ公園だ。ベンチあるからあそこで食べよう」
僕達は、公園のベンチに二人並んで腰かけ、早速パンを頬張る。
「うま!」
イラーノは、あの甘そうなパンを食べていた。彼は、甘党だったのか。
「ふう。食べた。お腹いっぱい」
イラーノは、幸せそうな顔をしている。
僕達は、パンを買い過ぎた。残ってしまった。さて、どうするか。
このパンは、日持ちしないって言っていたし。
あ、そうだ!
「ねえ、イラーノ。パン残したんだよね? 袋一つにしていい?」
「あ、うん。いいけど。このパン、どれくらいもつのかな? 明日の朝までもつかな?」
「もたせるんだよ。これに入れてね」
リュックから採取した物が入った保存袋を取り出し掲げた。
「それに入れちゃうの?」
「紙袋ごと入れちゃうから大丈夫」
僕は無理やり保存袋の中に入れた。
「採取したのと食べ物ごっちゃって……」
「うーん。パン用に保存袋買う?」
「それ、お金持ちの発想だと思う……」
そうかな?
いくらするか、明日でも商人ギルドに行ってみよう。あると便利だもんね。
「先に宿屋見てからでもいいかな?」
「あ、そうだった!」
「もしかして、ここに来た目的忘れてた?」
あははと笑って僕は、誤魔化した。
「まあ、明日の朝に買いに行っても問題ないから宿屋に行こうか」
「泊まれる価格だといいね」
イラーノは、そう期待を込めて言った。
ブラブラと歩き宿屋を探す。すぐに見つかると思ったのに、見当たらない。
「場所聞けばよかったね」
「うん」
イラーノ言葉に僕は頷く。
「ここで、聞こうか」
いつの間にか日も暮れてしまっていた。
僕達、街中で迷子?
目の前の建物は、商人ギルド。
「すみません。あのおたずねしたいんですけど……」
「おや、クテュールか? どうしました?」
「えっと、宿屋を探してまして……」
「宿屋? ここの地区でか?」
僕が頷くと、タリューグさんは目をぱちくりとさせた。
やっぱり驚かれる行為なのかもしれない。
「宿は、この上だ」
「え! ここ!?」
僕は、驚いて声を上げた。
それじゃ探しても見つからないはずだ!
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