◇084◇失った手がかり

 待っているとナットスさんが現れた。


 「お前達! まだここにいたのか!」


 そう言ったナットスさんは、左腕から血を流していた。右手で抑えている。


 「ヒールします!」


 「すまない」


 イラーノさんがナットスさんに近づいて、治療を開始する。

 あれ? どうなってるの?

 僕は、サトンを見た。無事に捕まえたような事を言っていたのに!


 『……相手を押さえつけていたがギャウギャウギャウ


 「油断した。隙を突かれて腕を斬られた」


 僕が現状をサトンに聞いていると思ったのか、ナットスさんは教えてくれた。

 そうだ! あの男はどうなった? 一緒じゃないからもしかして……。


 「ナットスさん。あの男は?」


 「……死んだ。捕らえる事が出来なかった。大事な情報源だったのに」


 ナットスさんは、俯いて答えた。

 反撃され手を負傷したナットスさんはきっと、手加減が出来なかったのだろう。


 これで、父さんの事を聞く相手を新たに探さないと行けなくなった。って、あの男の仲間しかいないけど。

 向こうも失敗続きだから慎重になるだろう。


 「お前達は、怪我はないか?」


 治療を終えたナットスさんが聞いた。僕達は、ないと頷く。


 「でもよく僕達が、森に行ったってわかったね」


 「うん? 採取の仕事だけごっそりとなくなっていれば気づくだろう? 聞いたら君達だって言うから急いで森に来た。間に合ってよかった」


 なるほど! バレバレだったんだ。

 まあエジン達だったら気づかなかっただろうけど。


 「クテュール。君は自覚が足りていない。理由はわからないが、ドドイさんの息子っていう事で狙われていたんだろう?」


 「あ、はい……」


 「え!? そうなの?」


 イラーノさんは、驚いて僕を見ている。

 きっと今、気づいたに違いない。違う事で本当に、巻き込まれたんだって……。


 「イラーノさん。ごめんなさい」


 「え? じゃ、街を襲ったのって、君を襲う為?」


 「イラーノ!」


 それ以上言うなとナットスさんは、イラーノさんを止めた。


 「街が襲われたのは、クテュールのせいではない」


 「そうだね。ごめん」


 僕は、首を横に振った。

 街を襲わせた一番の目的は、あの赤茶髪の男を始末する為だろう。でも作戦には、僕を殺す事も含まれていたに違いない。

 キュイが、サトンを救援によこしてくれなければ、僕は殺されていたかもしれないのだから。


 「とにかく戻るぞ。そうだ、クテュール。あの男の遺体を監視するように、そのサーペントにお願い出来ないか? 大丈夫だとは思うが一応な」


 「はい。お願いしてみます」


 僕は頷いた。


 「サトン。お願いがあるんだ。あのさっきの男の遺体を見張ってほしい」


 『わかったギャウ気を付けてなギャウギャウ


 「うん。ありがとう。お願いね」


 サトンは、地面に潜って行った。不思議な事に穴が空いていない! その事に、いまさらながら気が付いた。

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