久秀

 帰りの道中、久秀は先を歩く小七郎をにらみつけた。


 土蜘蛛衆に火矢を射かけられたときの、この男の機転は見事だった。本来あの傘は久秀が己を守るために用意したものだったが、瞬時にそれを盾にする発想に至ったのは、さすが塙家の歴戦の勇士といったところか。


 目障りな監視者は始末できなかったが、まあいいだろう。警戒が緩んだ今のほうがかえって動きやすい。それに土蜘蛛衆だけでなく、藤丸の母親が手に入ったのは好都合だった。母親を人質に、藤丸を手駒にできる。


 近々、織田家と石山本願寺いしやまほんがんじが戦を起こす。そのとき藤丸には、小七郎や直政の居所を知らせる間者になってもらおう。本願寺には鉄砲の名手ぞろいの雑賀衆さいかしゅうがついたと聞く。情報を流せば厄介者を狙撃してもらえるだろう。直政がいなくなれば、十市家と結んで力をつけた松永家が大和の統治を任される機会も巡ってくるはずだ。


 不意に小七郎が振り向いたので、久秀は表情を隠した。殺気でも漏れていたのか。訝しむ久秀に、小七郎が問いかけた。


「そういえば霜台どの、土蜘蛛衆に囲まれたときに扇の上で踊らせた鬼火。あれはいかなる方法で作り出したものにございましょう。仕掛けか、幻術か……」


「あれか。あれは先ほど申した通り、まことの鬼火よ。この久秀、魑魅魍魎の道理を心得ておるゆえにな」


 久秀の笑みに小七郎は怪訝な顔をしたが、やがて首を戻してふたたび歩き出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

じゃんじゃん火に映る顔 真弓創 @mayumisou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ