なんで猫さん助けてくれないの?

「あ、なんで猫さん助けてくれないの? なんで行っちゃうの?」


ある日、いつものようにパパのお膝でアニメを見てたら、ちっちゃい妹を連れた主人公が、公園で猫をイジメてる中学生くらいの人らに出くわして、でもそのままその場を離れようとするシーンを見てついそんな風に声が出ちゃった。


でもまあそのアニメでは、すぐに主人公の同級生で怪物に乗り移られた男の子がたまたま通りがかってその猫を助けるんだけど、怪物に乗り移られた男の子は見て見ぬふりして逃げようとした主人公に向かって言ったんだ。


「人間って、結局こういう時は自分が大事なんだよな。お前もやっぱりそうなのかよ」


これはただのアニメで、<作りもの>だって分かってる。だからつい声は出ちゃったけど、別にムキになることじゃないってのは分かってた。だけどCMに入った時にパパが言った。


「美智果。お父さんも、美智果を連れてる時にこういうのを見たらそのまま行くと思う」


『え…? なんで急にそんなこと言うの…?』


パパは、アニメの話じゃなくて、リアルでこういう場面に出くわしたらって話をしてるんだって分かった。だから私も、リアルの場合ならってことを考えてしまって、


「なんで? 猫さんかわいそうだよ…!」


って思わず言っちゃった。するとパパは私を見ながら言うの。


「その猫を助ける為に美智果を危ない目に遭わすことは、お父さんにはできない。主人公の子も、小さい妹を連れてた。だから妹を守る為にその場を離れることにした。その選択をお父さんは支持する」


私は悲しくなって、


「猫さん助けないの…?」


って訊いちゃう。そんな私にパパは容赦なかった。


「猫を助けたいと思う気持ちはある。でも、現実はアニメみたいに都合よくいかないんだ。格好良く猫を助けて良かった良かったにはならないんだよ。


もし、ここで猫をイジメてた子らがお父さんと美智果の顔を覚えて、美智果の登下校中とかに見付けたらどうすると思う?。今度は美智果に絡んできたするかもしれない。お父さんとしては、そういう可能性も頭に入れないといけないんだ」


「そんなの、この悪い人達をやっつけて懲らしめてもう逆らったりしないようにしたら…」


「そんなこと、本当にできると思うのかな?」


「え…それは……」


パパに言われて、私は考えてみた。『やっつけて懲らしめる』ってどうしたらいいんだろう?


いっぱい殴って痛い目に合わせたら逆らわないようになるかな?


ううん。そんなこと分かんない。逆に逆恨みして仲間を連れて仕返しに来るかもしれない。


なんてことを考えてたら……


「その時は反省したふりをして、その後で仕返しに来ないっていう保証はある? アニメだったら名前もないモブで、主要キャラの引き立て役としてやられて後はもう出番なしってこともできるけど、現実はそうじゃない。退場してはいお終いっていう風にはいかないんだ」


って、パパに言われてしまったんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る