それはできません

パパとお祖母ちゃんとの間で何があったのか、私は詳しくは知らない。だけどパパがお祖母ちゃんに対して何かヒドイことをしたわけじゃないのは知ってる。お祖母ちゃんもパパにわざとヒドイことをしたわけじゃないってこともパパから聞いてる。


でも、わざとじゃなくても人を苦しめたり傷付けたりっていうことはあるんだって。そういうのも気を付けないといけないってパパは言ってた。


だって、小学校の高学年の時くらいにはもう、パパはお祖母ちゃんとほとんど話もしなかったんだって。


大人になってからは、って言うか、私が生まれてパパも<親>になってからは、同じ<親>として共通の話題っていうのもできて話ができるようになったけど、それまでは十年以上、まともに話もしたことなかったって。


なんか、信じられない話だった。私の知ってるパパは、アニメとかゲームとかの話を、よっしーやマリーとか以上にできる人ってしか思ってなかったから。私が話し掛けたら、よっぽど忙しい時かしんどい時でなきゃ「はぁい?」って聞いてくれる人だったから。


だけどお祖母ちゃんはそうじゃなかったんだって。お祖母ちゃんはアニメやゲームを『くだらない』って思ってて、子供の時のパパがそういう話をしようとしたらはっきり『しょうもない話とかしてこないで!』っていう態度で聞こうともしなかったんだって。


その頃はお祖母ちゃんもお祖父ちゃんと離婚して大変だったっていうのはあったらしいけど、でもそれってただの<親の都合>で、子供には関係ない話だっていうのは私も思うよ。自分が離婚するっていうのを選んでおいて大変だからって子供に冷たくするのってどうなの?って私も思っちゃう。


だからパパは、自分がそれで嫌な思いしたから、私にはそれをさせたくなかったんだって。自分が大変でも、しんどくても、『本当にどうしてもムリ!』っていう時以外は『なぁに?』って聞くようにしてくれたんだって。


だからね、私もパパの言うことを聞くんだ。パパが私の話を聞いてくれるから、私もパパの話を聞くんだよ。


ママが亡くなって大変なのに、パパはちゃんと私のことを大切にしてくれたよ。『自分が大変だから』って言い訳しないで私の話を聞いてくれたよ。だから私もパパの話を聞くんだ。


パパが言ってた。


「他人の話を聞かない人って、たぶん、親に話を聞いてもらえなかった人なんじゃないかなってお父さんは思ってる。


相手の言いなりになるのと、話を聞くのとは違うよ。聞いた上で『それはできません』って答えるのと、最初っから聞く気もなくて『できない』っていうのはぜんぜん違うよ。


お父さんは大人のそういうところが嫌いだった。最初っから話を聞く気もないっていう態度が見え見えなのが大嫌いだった。だからお父さんはそういうのはしないようにしてるんだ」


ってさ。


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