考えてみたら分かるじゃん

なんて言うかさ~、男の人ってすぐ理想の女性像ってので<大和撫子>とかあげるじゃん? あれって正直、身の程知らずだよね~って思うんだ。


だってさ~、パパが言ってたんだ~。


「大和撫子? そんなものを求める人間の正気を疑うね。あれは、男が本当に、本当の意味で『命を懸けて戦ってた』頃の話だよ?


その頃ってさ、女性がよく政略結婚に利用されたりってんで我慢ばっかりさせられてたって思ってるかもだけど、男だって人質として養子に出されたりしてたんだよ? で、何かあったら切腹させられたり殺されたりした。そういう時代の話だよ?


だから、いつ命を落とすかも分からない男の人を労おうと思えばこそ、あの<大和撫子>と呼ばれる所作が出来上がっていった訳で、別に仕事で失敗したからって切腹とかしなくてもいい、最悪クビになるだけで済む程度の、マジもんで命を懸けてる訳じゃない男に、何でそこまでしなきゃならんの?


自分が女性になって男に尽くすって考えてみたら分かるじゃん。


戦に行って生きて帰ってくるかも分からない男なら自分のすべてを懸けてでも労えても、今のこの世の中の、命なんか本気で懸けてない男にそこまでできるか?って話だよ。


女性に大和撫子になってほしいって思うんなら、ヘタ打ったらガチで腹かっさばく生き方でもしてみろって言うんだよ。そこまでできるなら求めてもありだと思う。


でも、今時、そんな生き方できる? お父さんは御免こうむるね。だから大和撫子なんて求めない。


今時の女性に大和撫子がいないなんて、当たり前じゃないか。いざとなったら腹を召せる<侍>がいないんだから。


自分にその覚悟もないくせに何が大和撫子だよ。ヘソが茶を沸かすってもんだろ」


ってさ。それと、こうも言ってたな。


「あと、どんな時でも大和撫子たる姿を崩さないとか、ロボットか心のない人形でもない限り、そこまでできるっていうこと自体がとんでもない鋼メンタルの持ち主の、まさに<剛の者>だよ? 大和撫子ってのは、男にとって都合のいいお人形さんじゃないんだよ。男を操り、命懸けで家を守らせる、<影の君主>みたいなもんだよ。


おしとやかで楚々として男を立てるとか、そんなの、男を操縦する為の演技でしかないっての。男をおだてていい気分にさせて命まで投げ出させる為の<餌>なんだよ。それが大和撫子の正体ってもんだろ。


でなきゃ、そこまでできるかってんだ。


とにかく、もうそういう時代じゃないの。男が腹を切らなくてもよくなったから大和撫子も必要なくなったの。


それをわきまえろって思うんだ。お父さんは」


だって。


あ~、そりゃそうだよね~。


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