第240話 俺は石拾いがしたい
「ここが4体目のエリアボスがいる場所か?」
俺がそう呟くと、隣に立つ天造さんは小さく頷いた。
世界のあらすじにも書かれていた通り、次のエリアボスは『水辺の死神』らしい。そのため、本来エリアボスの配置してある河原にやってきたのだ。
「でも、まだ条件を満たしてない」
「条件か、今回はどんなのだったんだ?」
キュドラことアークドレイクの時は『洞窟の表ボスを倒すこと』。ダッキーことダークキングスライムの時は『中級者の草原で一定数以上のモンスターを倒すこと』だった。
今まで条件を満たすこと自体は、そこまで困難なことではなかったが、4体目ともなるとそちらの難易度も上がってくるのではないだろうか。
「今回の条件は……」
天造さんはウィンドウを出現させると、スライドしてエリアボスについての詳細を確認する。
「『河原で一番綺麗な丸い石を見つける』……って書いてある」
…………ん?
予想とは真逆の印象を受ける言葉に、俺は思わず首を傾げた。そしてもう一度聞き返す。
「ごめん、一瞬寝てた。もう一度言ってくれるか?」
「昨日、眠れなかった?私は棺桶でぐっすりだったけど」
「嘘つけ、泣きじゃくってたろ。てか、俺の心を抉ってくるから、その話題はもう出さないでくれ……」
後輩を泣かせたなんて、黒歴史より黒歴史黒歴史してるんだからな。出来れば忘れさせて欲しい……。
そんな俺の苦心を察してくれたのか、彼女は話を前に進めてくれた。
「今回の条件は『河原で一番綺麗な丸い石を見つけること』。つまり、石探し」
石探し……もちろん『この中にお医者様はいらっしゃいますか!』の医師探しではない。2人の女の子に言い寄られ、どっちを選べばいいんだ……という自分の意思探しでもない。
道端に落ちていても気に留められることは滅多になく、なんでもないのにたまに宇宙からの飛来物だと言われ、小学生には自宅前まで蹴られ続ける。
世界中どこにでも存在するあの石のことだ。
「えっと……データを書き換えられて、難易度は上がってるんだよな?」
「いぇす。前は電気うなぎの手掴みだった。難易度は格段に上がってるはず」
いや、電気うなぎの方が難しくないか?天造さんにとっては、体力面重視の手掴みよりも精神面重視の石探しの方が辛いってことなのだろうか。
「まあ、確かにこの中から探すんだもんな……」
河原には数千個……いや、小さなものも合わせれば数万にも届くかもしれないほど、大量の石が散乱していた。
そこから条件に一番合うものを見つけるとなると、日暮れを3回見ても終わるかどうか怪しい。
「えっと……じゃあ、早速探すか」
正直、こんな地味な作業は嫌なのだが、天造さんもやる手前文句は言えない。俺は自分に喝を入れると、足元の石を拾い上げた。
「うーん、これじゃないな……」
ゲーム内時間で3時間後。
「これでも……ない……。ああ、これでもない……」
石を拾い上げては、確認したものを分けるためにストレージに入れ、また拾ってはストレージに入れ……を繰り返していると、気がつけば体を動かせなくなっていた。
基本的にストレージに入ったものの重さはゼロになるのだが、あくまでそれは『基本的』な話であって、完璧にゼロというわけではない。
数千個……下手すると数万の石をストレージに入れた俺は、一つあたり数キロの石が10グラムずつになったと考えても、数十万グラム……要するに少なくとも100㎏を引きずって歩いているのと同じなのだ。
「もう動けねぇ……」
一つあたり半分でも50㎏なのだから、体育会系じゃない俺にとって、それはもはや重労働の域に達していた。それなのに、まだ条件に合う石は見つかっていない……。
「天造さんの方はどう?見つかっ――――――――」
た?そう聞こうと振り返った俺は、思わず言葉を喉の奥に引きずり戻した。絶句ってこういうことを言うんだろうな。
「天造……さん?」
もう一度名前を呼ぶと、彼女は俺が見ていることに気づいたようで、「お疲れさまです」と会釈をしてきた。
「いやいやいや……違うだろぉ!?」
おっと、豊〇議員が出てきてしまった。ハゲでもない相手に「このはげぇ!」と恫喝してしまう……。
「待て、何故そんな格好なんだ?」
理由も聞かずに怒るのは悪い大人。そんな言葉を思い出し、俺は一度冷静に質問してみた。
今の天造さんはどこから持ってきたのか、そのロリロリしい体型によく似合った、スポブラ型の白い水着を身につけ、これまたどこから持ってきたのか岩場に突き刺したビーチパラソルの日陰に折りたたみ式のサンチェアに寝転んでいた。
サングラスまでつけている辺り、南国気分を味わっているみたいだが……。
「
「やっぱりくつろいでるだけじゃねえか!」
ツッコミと同時に、限界を迎えたストレージが弾け、中に入っていた石が俺を中心に四方八方へ飛び散っていく。
これで俺の努力も水の泡だ……水辺だけに。
「先輩、違う。私、肌弱い。だから日差し無理」
「なるほど。確かにこのエリアは『リア充たち、どうぞBBQして青春を謳歌してください』と言わんばかりに日差しが強い……って、ゲーム内だから関係ないだろ」
「ぐっ……勘のいいガキめ……((ボソッ…」
「聞こえてんぞ、おら」
てか、俺がガキならお前もガキだろうが。いや、ロリか。
「とりあえず、サボってたんだよな?なら、働いてもらわないと困るな。俺はあくまで天造さんを手伝ってるんだから」
俺はそう言うと、彼女の腕を掴んでサンチェアから立ち上がらせた。そしてまだ探していない石がたくさんある場所へ連れていこうとする。
だが、彼女はそれを拒んだ。そして俺の腕を強引に振り払うと、慌てて足元の大きくて形の悪い石を持ち上げる。
もしかして、働きたくないという理由で俺を撲殺するのだろうか。そっと
だが、そんな俺の心配は無用だったらしい。天造さんは「無いなら作ればいい!」と言うと、その大きな石を空に向かって投げた。
なんて危険なことしてんだ、このロリは。幸い俺たち意外に人はいないため、俺さえ避ければ人的被害はゼロで済むが……。
「
彼女はいつの間にか取り出していた『アルルカン』の黒い画面を身につけると、落ちてくる石に向かってそう呟くり
直後、重力に従って上から下へ自由落下していたそれは、地面から3m程の高さで宙に留まった。そして――――――――――――。
「
天造さんがスキルを重ね掛けした途端、石にかかる全方位からの重力が倍増し、耐えきれなくなった石は粉々に弾けてしまう。
「痛てぇ……」
その破片が俺の額に命中。ほんの少しだけHPが削られた。人的被害…………アリだな。
「これが条件の石」
天造さんは何度か同じことを試し、その度に俺の額にダメージが加算された結果、6回目で遂に理想の形、大きさが誕生した。
「待ってくれ、普通に死ぬ……」
どうやらピンポイントで同じ場所に連続で攻撃が当たると、コンボのようにダメージが加算されていくシステムらしい。
初めは微々たるダメージだと侮っていたが、今は視界の左上にあるHPゲージが赤色に変わっていた。要するにDangerだ。
石探しで疲れ果てていたこともあって、杖すら持ち上げられない俺は、結局天造さんにアイテムで回復してもらうことになった。
無表情なのに面倒くさそうに見えるのは何故だろう。てか、自分が与えたダメージ分くらいは責任とってくれてもいいだろ。
「薬草、美味しい?」
「俺は餌を与えられる飼育動物か」
ほんの少しだけロリ母性を感じた気がした。
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