第51話 青葉にバレる
「怪しいとは思ってたけど、まさか本当に付き合ってるとは......」
楓の部屋におじゃまし、正座で話を聞いている。
今日の昼休憩の時間、二年の教室に、息を切らした青葉ちゃんが入ってきた。普通、上級生の教室に入ることに抵抗があるものだが、周りの目を気にせず、というよりは周りが見えていない感じで、躊躇なく入室した。
俺は何となく、ここに来た理由がわかったので、騒ぎになる前に教室の外に連れ出し、踊り場に向かった。妹が入ってきたことに、教室にいた楓が気づかないはずがないので、何も言わず楓もついてきた。おそらく、楓も青葉ちゃんが教室まで来た理由に気づいたのだろう。
青葉ちゃんの第一声は「やっぱ二人付き合ってたの!?」だった。予想通りだったし、そろそろバレるだろうな、と思っていたので、特に取り乱すこともなかった。むしろ、取り乱しているのは青葉ちゃんの方だった。
踊り場に人はいなかったが、校内ではゆっくり喋ることができないと思い、放課後話し合いの場を設けることを提案した。二人が同意したので、楓の家で話し合うことが決定した。
どこから話すべきだろうか。楓もバレたら本当のことを言うつもりだと言っていたので、まずは誤解を解くところからだ。
「いや、本当に付き合ってるわけじゃなくて、何というか、付き合ってるように見せてるというか」
「どういうこと」
いつもの笑顔は封印されてるようで、神妙な面持ちで訊かれた。隣で正座する楓が「私が上手く説明するよー」と言ったので、任せてみることにした。
「だからつまりね、私たちは付き合ってるんだけど、付き合ってないの!」
「まだ俺の説明の方がわかりやすかったと思うんだけど。問題の解説は上手いのに、こういうの下手なんだね」
「なっ。伝わってないんだから、悟も一緒だから! レベルは一緒だよ。伝わってなかったら、意味ないんだから」
「わかりやすいように、説明してあげてよ」
青葉ちゃんが目を細めて、こちらを見ていることに気がついた。
「えっとね。私たちは付き合ってない。そう、付き合ってないんだよ。ここまではおーけー?」
「うん」
「でもね、私たちはみんなに付き合ってると思わせてるの」
「そこから、よくわからないんだけど! どうして、そうなったの? それに、どうして、そんなことする必要があるの? いつからやってたの?」
怒涛の質問攻めに、一つずつ丁寧に、誤解を招かないように一年間の出来事を話した。公園で待ち伏せされて、この計画を持ちかけられた話や神崎たちと勉強会を開いた話。二人でスイパラに行った話や誕プレをあげた話。あと、青葉ちゃんもよく知っているクリスマスの話。
楓が学校でモテすぎていることも話して、一通り説明し終えた。
口を挟まず頷きながら、話を最後まで聞いてくれた。
「理解したよ。二人は付き合ってるように見せかけるために、フリをしてるんだよね?」
「まあ、そうだね」
「それなら、校内以外で話しても、意味なくない?」
「俺も最近そのことには薄々感づいてた」
「じゃあ、なんで二人は遊んだりしてるの?」
「仲がいいからでしょ」
ほとんど喋っていなかった楓が、会話に参加した。
「青葉から見たら、仲がいいってレベルじゃないんだけど。付き合ってるって言われても、違和感ない。学校でそのこと聞いた時、やっぱりか、って思ったもん。本当に演技なの?」
「そうなるね」
俺が答える前に、楓が言った。
付き合っているように見えていたのなら、良かった。楓のもっとも身近な人物がそういうのなら、校内の誰一人にもバレていないだろう。良かったのだけれど、演技であると再認識させられると、少し寂しさを覚えた。
みんなを騙すためだけに、俺と絡んでいるとは思わないし、もしそうだとしたら、青葉ちゃんの言うように校外で会う必要はない。頻度は高くないが、遊びに行くことはあったし、定期的に連絡も取り合っている。それなりに好意的に思ってくれているのだとは思っているし、俺も楓に対してそういう感情を抱いている。けれど、それは友達としての好意だけで、他意はないのだと思う。
「本当に付き合っちゃえばいいのに。じゃあ、演技なんてする必要なくなるよ?」
「いやいや、青葉何言ってんの!?」
今まで冷静に話してた楓の声が上ずっていた。
「何って、思ったこと言っただけだよー。おじゃまだったら、出ていこっか? あ、買い物頼まれてたの忘れてた。それじゃ」
そう言って、楓が止める前に立ち上がり、「先輩ファイト!」と捨て台詞のように言い、部屋から出ていった。出て行く瞬間の表情は、いつものニコニコした青葉ちゃんらしい顔をしていた。
先輩呼びが継続されているのは、嬉しい。が、楓の部屋に二人きりになってしまった状況はよろしくないな。
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