第47話 南楓とお土産
「たっだいまー!」
「おかえり」
玄関先で、数日ぶりに幸せオーラをまとった生気に満ちた声を聞いた。昨日旅行から帰ってきて、今日お土産を渡しにわざわざ家まで来てくれたのだ。
「お土産何にするか迷ったんだけど、悟は甘い物が好きそうという姉妹の意見が一致したので、これにした!」
サービスエリアの名前が入った袋を受け取り、取り出してみると、パックに入った大福が出てきた。大福が有名な土地にでも行ったのだろうか。
パックに貼られた商品ラベルのシールに美味しそうな写真が載っている。
「フルーツ盛りだくさんだね」
「そうなの! 一つ食べたけど、いちごの甘さとキウイの酸味がちょうど良くて、すっごく美味しかった。味は私が保証するよ」
スイーツが大好きな楓が言うのだから、きっと美味しいのだろう。不味くなる要素がないし、楽しみだ。
「後でいただくよ。ありがとう」
「いえいえ〜。私に会えなくて、寂しくなかったかい?」
「寂しかったかもなあ」
小首を傾げてからかってきたので、俺も冗談で返した。冗談で言ったけれど、本人に直接言うのは恥ずかしいな。顔が赤くなっていないか今すぐ鏡で確認したい。
予想に反する返事が戻ってきて、きっと焦るはずだ。そしたら、冗談だよ、と言うことにしよう。
「考えていることは同じだったようだね。私も!」
「だよなあ......ん? え?」
自然な流れすぎて、俺の予想とは異なる返事が戻ってきていることに気がつかなかった。
いやいや、おかしい。もしかしたら、これもからかわれているのかもしれない。俺が冗談で言っていることに気づき、彼女も冗談で返した。きっと、そうだ。楓がそんな風に感じるはずないもんな......。
俺の本心は、寂しくなかったと言えば、嘘になる。それなら、さっきのは冗談と呼べるのかな?
「どしたの?」
「いや、何でも」
「なにそのはんのー。寂しかったんだよね?」
「......うん」
「学校がある日は毎日話してたんだから、仕方ないよねー。話すのが当たり前の生活になってたもんね。もう少しでまた学校始まるし、それまでの辛抱だよっ」
たとえクラスが違ったとしても、今の関係が続く限り二人で通うことができることに、心が弾む。そんな自分の気持ちを表に出さないように、神経を使った。
「そうだな。俺たち一年間ほとんど毎日二人で登下校してたのかあ。最初はどうなるか不安だったけど、なんとかなったな」
「なんとかなってるねえ。最近は演技関係なしに、楽しんじゃってるよ」
言った後の微笑みも久しぶりに見た。数日会っていないだけで久しいと感じてしまうようになっている。
「楽しんでるのは俺もだから」
これは本心だった。便乗してなら、すっと口から言葉が出た。
「おお。それは良かった! 悟が我慢して付き合ってくれてるんだったら、どうしようかと思った」
「最初はそう思ってたけど、最近は全くそんなことないよ」
「ふふふ。一年間、ありがとうございました」
「感謝するのは俺の方だよ。色々助けてもらった。二年生になってもよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
楓の旅行話や神崎たちが喧嘩した話などをした後、彼女は「また学校で〜」と言い、帰っていった。
明日にでも学校が始まっても良いのになあ、と思いながら、玄関の扉を開けて、家に入った。
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