第31話 天野、悩む

 カフェで駄弁った後、移動することにした。

 

 館内にあるショップで何か買いたいとのことだったので、行ってみることにした。

 ストラップやぬいぐるみ、イルカのトートバッグなど、水族館らしい物がたくさんあった。楓は「かっわいい」と言いながら、店内を散策している。


 俺は少し離れたところで、ボールペンを選ぶフリをしてプレゼントについて考えることにした。


 ここで渡すべきか? 店を出た後、渡すのはどうだろう。彼女のテンションが高いうちに渡したいのだ。

 この後の予定は、イルミネーションを見に行くだけ。その時を逃せば、渡せずじまいになってしまい、俺が一人でスノードームを楽しむことになってしまう。彼女はプレゼントとして渡したわけではないのだろうけど、チケットを貰ったので何か返したいという思いはある。


 恋愛経験の浅さが露呈してしまっている。別に付き合っているわけではないのだから、軽く渡せば良いのだ。かるーく。


「はあ」


 無意識のうちにため息を吐いてしまっていた。こんなに悩むほど、自分が誰かにプレゼントを渡すことに対して慎重になっていることに、気恥ずかしさを感じながらも、今までこのような感情を抱いたことはなかったのでちょっと嬉しくなった。

 うーん。店を出たら、渡すか......。


「どうしたんだい。天野悟や」


 一瞬、誰の声かわからなかったけど、館内で俺の名前を知っているのは一人しかいないので楓であることがわかった。イルカのぬいぐるみを顔の前に持ってきて喋ってるけど、腹話術のつもりだろうか?


「それ何のモノマネ?」

「イルカ?」

「イルカはそんなに声低くないと思うんだけど」

「まあまあ、細かいことは置いといて、ため息なんか吐いちゃってどうしたの?」


 まずい。見られてた。プレゼントについて悩んでたなんて言えるわけないし、つまらなくってさー、なんて嘘は言語道断。ああ、どうすれば。


「もしかして、お金ないの?」

「へ?」

「いや、二本のボールペンを見比べて、悩んでるようだったから。どっちもいいけど二本も買うお金がないのかなって思って」

「そ、そうなんだよ。楓はどっちがいいと思う?」


 俺は手に持っていたサメとアザラシの絵柄のボールペンを見せた。


「こっちのサメの方」

「よし、じゃあこっち買ってくる」


 助かった。ボールペンを持ってて、良かった......。彼女でなければ、こんな勘違いを起こさなかっただろう。

 一本のボールペンを買い、店を出た。店先で、楓が「じゃじゃーん」と言い、クリスマス限定のカメのストラップを取り出した。


「これあげるよっ。お揃いだよ」

「あ、ありがと」

「ふふふ。これでアピールになるよ」


 同じストラップを身につけていれば、確かにアピールになるな。冬休みに入ってしまったので、アピールできるのは年が明けてからになるけど。


「悟は他に行きたいところある?」

「ないな」

「じゃあ、イルミネーション見に行こっか」


 彼女は俺の前をスタスタ歩いていく。プレゼントを渡すタイミングは、何となく、今ではないような気がした。本当に何となく。

 プレゼントを渡すベストタイミングがいつなのか、学校の授業で教えて欲しい。

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