第23話 南楓とバレーボール
俺が体育館内に再び入ると、楓のチームが整列していた。相手は二年生。体格では負けている。楓のチームメイトにバレー経験者はいるのだろうか?
試合が始まるとほぼ同時に、神崎たちが俺のそばへ来た。
「急に消えるなよ。心配したんだぞ」
「嘘つけ。楓の試合始まったよ」
「え、楓ちゃん今出てるの?」
「うん」
俺はちょうどサーブを打った楓を指差した。
「本当だ! 可愛いし、かっこいい〜」
「南上手くね?」
「俺もびっくりしてる」
何事もなかったかのようにプレーしている。さっき練習風景をチラッと見た時でも、上手いな、と感じたけどコート内の楓はさらに生き生きしているように感じた。声を出し合い、楽しそうにプレーしている。
俺たちのチームとは比べ物にならないくらい息が合っていた。あの短時間でここまで連携を取れるなんて、どうやったんだ? 楓は当日まで体育祭のつもりだったと思うし、練習をしていたわけではないと思う。個々の能力が高いのもあるが、そこまで相手チームより秀でているようには見えない。富永と比べたら、一人を除き、技術は劣っているだろう。さっきから絶妙なトスを上げてるあの人は多分、経験者。
経験者が一人のチームでも互角以上に闘えているのは、三日前にチームができたとは思えないくらい各々がきっちりと自分の仕事を果たしているからだ。
彼女のクラスの友人事情はあまり知らないが、普段から仲の良いメンバーなのだろう。それなら指示なんかも出しやすいはずだ。これはそこそこ良いところまで勝ち進みそうだ。未経験者の全く当てにならない予想だけど。
「おつかれさま。初戦突破おめでとう」
「ありがと!」
試合を終えた楓に声をかけにきた。
「楓ちゃん運動神経いいんだね。勉強もできるし、二刀流だ......」
「そんなことないよ! みんなは結果どうだったの? 勝った?」
「全員初戦敗退」
「うそー。直接対決で悟のこと倒したかったのに」
「きっと俺たちが大差つけられて負けるよ」
俺たちのチームが彼女のチームほど息のあったプレーができるとは思えないので、また富永の足を引っ張って敗北するだろう。
「やってみないとわかんないよ?」
「やってみなくてもわかるよ。次も頑張って。応援してる」
「ありがと! 次も勝つね!」
楓はチームメイトの元へ帰っていった。
「俺は楓の試合見るつもりだけど、お二人さんはどうする?」
「私も楓ちゃんの試合見たい!」
「まあ、他にやることないし、見とくか」
試合が始まるまでは他の試合を眺めていたり、駄弁ったりして時間を潰した。
楓のチームは三回戦で僅差で敗れた。二回戦は危なげなく突破したが、三回戦は相手が悪かった。半分以上バレー部員のチームで、未経験者主体のチームでは敵わなかった。それでも技術の差は感じられたが、実力差をそこまで感じさせなかったのは、すごかった。楓たちを破ったチームは準優勝。大健闘だ。
バレーボール大会が無事終わり、一旦、みんな教室に戻っていく。わざわざ教室に戻ってもすることがないのだから、このまま帰らせて欲しい。一試合しかしてないけど、なんか疲れた。今日はゆっくり家で休もう。楓は友達と帰るのだろうか? さっきまでいたのに聞きそびれた。まあ、教室を出て、待っていなかったら、そういうことだろう。
「打ち上げ行くのか?」
「俺が行くようなキャラに見える?」
「全く」
教室で神崎がわかりきった質問をしてきた。半年くらいの付き合いになるのだから、そんな無意味な質問はしないでいただきたい。打ち上げにいっても、端っこでお地蔵さんになる未来が見える。それに、クラス内でも三チームあるのだ。クラス一丸となって、闘ったわけではない。チームメンバーと行くのならまだわかるが、クラス単位で行くのはよくわからない。行事がある毎に打ち上げをするのは高校生らしいな、とは思うけど。
楓は行くんだろうな。そういうの好きそうだし。対照的に俺は家で映画でもだらだら見ながら、疲れを癒そう。数試合プレーしていた彼女にどこからそんな元気が湧いてくるのか訊きたい。
「なあ、打ち上げ行かね?」
「は?」
神崎も俺と同じ打ち上げ不参加派だと思っていたのに。裏切り者!
「言葉足らずだったな。さっき千草と話してたんだけど、南も誘って四人で行かね?」
「楓はクラスの友達とそういうの行くんじゃないの?」
「実は南からはもう了承を得てるから、大丈夫」
仕事が早いこと。正直、家で身体を休めたい。一瞬、断りそうになった。けれど、たまにはこういうのも悪くないな、と思い、「行く」と言った。
神崎は少し驚いた様子だった。やっぱ、俺のことわかってんじゃん。
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