第十四章 踊り子

方針


 ここはキリーの亡霊の館、ダフネさんがお話中です。


 私たちは神聖教教団と、どのように接触するかで作戦会議をしています。


 ダフネさんの熱弁を圧縮しますと、教団は組織としては末期状態で、私が突然訪ねても、黒の巫女と認識できる者はほとんど存在しないらしい。


 本来、大賢者がいれば、黒の巫女と出会った瞬間に解るらしいが、その大賢者は空位になって久しい。


 大賢者を支える神官グループ、賢者というらしいのですが、その人たちも、神聖教の権威を利用しようとする各国の利益代表という状態で、教団としての意思が何一つまとまらない。


 そもそも神聖教の最大の存在理由は、世俗の権力には不介入だが、それゆえ各国間の調停をするということ。

 つまり建前上、俗世の利益には関係ないので、公平な調停ができる、その調停は神聖教の権威でなされるので絶大である。


 ということは、この調停を有利に下せれば利益も絶大で、その調停をする賢者を取り込むことに、各国の熱が入るという図式が成り立つ。


 このような状態なので、教団組織は各国の寄り合い所帯となり下がり、悪い中での均衡がとれている。

 そんな中で、黒の巫女の存在を認めるということは、調停という美味しい既得権を手放すことになる。


 しかし賢者は既得権を手放さないし、それに繋がる官僚組織も、保身のためにも、黒の巫女を認めない。


 ただ少し有利なのは、私がジャバ王国女王ということ、つまりイシュタルが、黒の巫女になることに対しては、大陸主要三カ国のバランス上、考えられないこともない。


 実力のないジャバ王国が、お神輿状態で乗っかることは、三方一両損の状態になるので、ベストではないがベターとなるだろうと推測できる。

 つまり揉めに揉めたら目がある。


 でどうするかということで、紛糾しています。


 アポロさんは官僚組織の中核あたりを押さえ、つまりお金に物をいわせ、その上部の賢者達を買収しつつ、弱点を探し脅迫と買収で、私を黒の巫女として認めさせるという案を押します。


 なるほど実現性はありますが、この手の方法はその後が大変、その地位を維持するのに、多大な労力が必要になり、何かをなす場合、時間がかかると思われます。


 ダフネさんの案は過激です、賢者一人一人に、私が実力行使で否応なく認めさせる、お金ではなく恐怖に物をいわす方法です。

 これにも賛成はしかねます、綺麗ごとではありますが強制は嫌なのです。


「アポロさんの案も、ダフネさんの案も、実現という点では間違いはないと思いますが、私としては何とか空位である大賢者を立てて、その人に私を黒の巫女と宣言して欲しいのですが」


「難儀ですね……」とアポロさんが云います。

「ダフネさん、大賢者はどのように選ばれるのですか?」とアポロさんが聞きます。

「賢者のグループ総意となっています」


「つまり賢者のグループを代表するものが、委託を受けて大賢者を選んでも、総意ということになりますね?」

「たしかに制度上はそれでも可能です」

 と、ダフネさんが答えました。


 アポロさんが私に、

「イシュタル様は大賢者を立てるに際して、ある程度は裏があってもよろしいですか?」

「利益誘導程度なら、やむを得ないでしょうね」


「大賢者になった後の、それなりの整理はお認めになりますか?」

「それも血の粛清でなければ、いたしかたないでしょう」


「では私に少し考えがあります、お任せ願えませんか?」

「イシュタル様のご希望に対して、ぎりぎりのグレーゾーンですので、方法論はご勘弁願いたいのですが?」


「分かりました、この件に関してはアポロさんのお腹の中で結構です。汚れ役を押し付けるようですが、アポロさんが云う以上それしかないのでしょう」


 アポロさんが、

「イシュタル様には、黒の巫女とは知られぬよう、なお且つ目立つように教団領へ入っていただく必要があります」

「皆さんの知恵が必要です。皆さんが堂々と目立つように教団領へ入る方法を考えてください」


 ダフネさんが、

「一つ思い当たる方法がありますが、巫女様とサリー、アテネ、小雪の、四人の絶大な協力が必要になります」


 いま、ものすごく嫌な予感がします、この後を聞きたくないのですが……


「ダフネさん、どのようなことでしょう?」

 と聞かざるを得ません……


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