リリータウン再び


 やはりお風呂はいいものです、極楽、極楽。

 アナスタシアさんも、初めてのお風呂に気持ちよさそうで、小雪さんと笑いながら話をしています。

 サリーさんが話の輪に入って行きました。


「イシュタル様」、アテネさんが来ました。

「なんでしょう」と聞くとアテネさんが黙っています。

「アテネさん、背中を洗ってあげましょうね」

 と二人で洗い場に座り、私はアテネさんを洗ってあげます。

 アテネさんはおとなしくしています。


「アテネさん、お風呂は気持ちよいですか?」と聞くと「はい」と云います。

 本当に無口ですね。


「アテネさん、ここでの服はどうするのです、支給された服で済ますのですか?」

 と聞くとまた「はい」と答えます。


「お古でよければ私の服を差し上げましょうか?」

 アテネさんが、

「本当ですか、イシュタル様の服を頂けるのですか?」


 無口なアテネさんが、急に大きな声を上げますので、皆が振り返ります。

 アテネさんが抱きついてきました、「イシュタル様、イシュタル様」

 可愛いですね、思わず頭をなでなでしてしまいます。


 で急に視線を感じます。

 皆がなにを思っているのか、明白に分かりました。


「皆さんも一着ずつ差し上げましょう、希望する方は明日の昼過ぎぐらいに、私の部屋へ来てください。でもいっときますが、私の服は男物ですよ」


 もうだれも、目がキラキラしています、サリーさんなんか、すごい気合いのようですよ。

 アリスさんまで嬉しそうにしていますが、

「アリスさん、貴方に合う服はないのですが」と言うと、見事なぐらいシュンとしました。


 するとアナスタシアさんが、

「私でよければ仕立て直して差し上げますが?」と云います。

 皆さんの驚くこと、アナスタシアさん、皇女殿下でしたね、なぜそのようなことができるのでしょう。


「私、家事は得意なのです」


 アリスさんの喜ぶこと、「お姉さまの服を着る」と云いながら走りだしました。


 そうそうアリスさん、リリータウンの管理者として仕事をしてください。

 アナスタシアさんの居室と、支給品などを説明してください。


 夕方、私は食堂に行きますと、サリーさんの背中が見えます。

 サリーさん、やはり私の中ではサリーさんが一番好きです。


 サリーさんの栗毛色のポニーテール、私をいつも大事にしてくれる人、初めにこの世界に来た時に出会った人、サリーさんがいなければ私はどうなっていたことやら。


 私は後ろから、そぉっと近づいて、ギュッと抱きしめました。

 びっくりしたサリーさんが振り向き、「お嬢様」と云います。


「サリーさん、久しぶりの様な気がします」と、私はサリーさんの横へ座りました。

 しばしの沈黙が心地よいですね。


「初めてエラムへ来た時の夜、二人で二つの月を眺めました、あれは遥か昔の様な気がします」

「今まで必死で走ってきたような思いです」

「本当はもっとゆっくりとしたかった、サリーさんとゆっくりしたかった、本当ですよ」


「私はどこへ行くのだろう、なすべきことをなしているのだろうか、日々考えてしまいますが、こんなものは投げ捨てて、サリーさんと過ごしたい」

「私が男のままで、サリーさんと出会っていたら、きっとそうしていたのではと思います」


「皆さんの手前、私はリーダーとして皆さんのことを考えていますが、たまには私も頭を撫でてもらいたい、そう思うことがあるのです」

「我儘ですがサリーさんは離しません、私が生きている間は、同じ時間を共有してもらいます」


「お嬢様……」


 私はサリーさんを再び抱きしめました。


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