しりとり

 旅は順調に進んだ。

 途中魔物が現れる事もあったが、おれ達が相手するまでもなく、護衛の人達が倒してくれた。

 その実力はしっかりしていて、上手く連携をして魔物を相手取るさまは見事だった。


「この調子なら、コサイムまであと一日かそこらで着くぞ」


 御者をしているクルドがそう言った。

 旅を始めてもうすぐ二十日。

 コサイムまであと僅かなようだ。


「ユースケ、よかったな。コサイムまであと一日程で着くってよ」


「やっとか! 旅は最初のうちは楽しいけど、長いから飽きてくるんだよなー。馬車の揺れは酷いし、ケツは痛くなるし」


「ユースケのいた世界では、馬車は快適だったのか?」


「んー、馬車って言うか、前にも話したと思うけど、馬がいない馬車みたいなのがあるんだよ。揺れも酷くないし、王都からコサイムまで、一日あれば余裕で着くかな」


「それは……便利そうだな」


「なんだよ? 信じてないのか?」


「いや、すまない。想像出来なかっただけだ。ユースケを疑っている訳ではない」


 そんな便利な物があるなんて。

 ユースケのいた世界は進んでいるんだな。


「ねぇ、ご主人様、しりとりしよ?」


「え? またかよ? 暇だからいいけどさー。はぁ。この世界は娯楽も少ないからつまんねぇよな。魔術なんかはわくわくするけどさ」


 ユースケとフェミリアが、しりとりを始める。

 しりとりというのは、ユースケが考えた、いや、ユースケのいた世界での言葉遊びだ。

 最後の言葉を繋げていき、"ん"がついたら負けらしい。


 この遊びは暇つぶしになるし、面白い。

 フェミリアは夢中になっていて、もう何回もユースケとしりとりをしている。

 おれも何度か参加した。


 それで、一つ重大な発見をした。

 ユースケが話す言葉についてだ。


 ユースケはどうやらこの国の言葉を喋っていないようなのだ。

 だが、おれ達にはこの国の言葉のように聞こえる。


 観察してみると、口の動きと出てくる言葉が違うのだ。

 ユースケ曰く、「おれは日本語を喋っているだけだぞ」とのことだ。


 おそらく、召喚された時に何らかの魔術が働いて、言語が通じるようになったのだろう。

 ユースケからしてみれば、おれらの話す言葉も、"にほんご"というものに聞こえるらしいからな。


 この魔術の面白い所は、違和感なく伝わるという事だ。

 ユースケの世界の言葉で言ったものが、この世界の言葉に置き換わる時、もちろん名称や発音が違う。

 だが、しりとりが成り立っているのだ。


 例を出せば、"り"で終わった言葉の次は、"り"で始まる言葉でないといけない。

 だが、ユースケが発言するとき、注意深く聞いていると、明らかに"り"から始まっていない事があるのだ。


 おそらくこれは、ユースケの世界の"り"から始まる物が、この世界では"り"から始まらない名称の物だからなのだと思う。

 それなのに、おれとフェミリアは違和感なくしりとりを続けている。


 つまり、おれとフェミリアは、ユースケに掛かっている魔術の支配下にあるという訳だ。


 これは、凄まじい魔術だ。

 どのようにしたらこのような魔術が使えるのか。


 属性ですら想像出来ない。

 召喚する時、光属性の魔術師を集めたと聞くが、光属性なのだろうか?


 というかこれは、魔術というより、どちらかというと魔法に近い気がする。

 こういう発見があるからこそ、魔の探求はやめられないんだ。


 おれが自分の世界に浸っていると、突然馬車が急停止した。

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