月経を結ぶ律儀者


『やったぁ、どうにか完成したぁ』


『ん?、何々なになに?、何が出来たの?』


『うん、あのね、ちょっとネットに載せてみよっかなって、プチプチ小説』


『プチ小説?、へぇ、ちょっと俺にも見せてよ』



  □■□■



『…これって俺、ラスト死んでるよね』


『んほっ?、なんで、生きてる生きてる、だってほら重体だから、だいじょぶだいじょぶ』


『にしてもちょっと複雑な気分だな…それになによりこの内容自体がさ、なんか俺、かなりプレッシャーをかけられてるような…』


『んへっ?、プレッシャー?、一体なんのこと言ってんの?、よっくわかんないんだけど』


『わかんないって…てかこないだだってほら、テーブルんとこ置いてたよな、ゼ◯シィ』


『んひょ?、そう、だったかなぁ』


『そうだよ、で、次にこのプチ小説だろ、これってもう確信犯ってやつだろ』


『何よそれ、人を罪人つみびとみたいな言い方して、もう私、律キライ』


 結月は軽く頬を膨らませ、何気にショッピングバッグから雑誌を取り出すと、それをスッとテーブルに置いた。


――ん?、んぉ、おっ、おっ、おい、マ、ママンマンマ、マジか、それ、た◯ごクラブだよな、どう見てもa○anじゃねぇよな…


『ユヅ…その雑誌……』


『なんかさ…生理遅れてんだよね……』


 結月はさりげなく、雑誌のページをめくった。


――そっか、コウノトリが軽く鼻歌でも口ずさみながら、知らない間に勝手に忍び込んでいやがったか……



  ▽▼▽▼



『ただいまぁ』


『おかえり、今日ね、中辻市場いちばでお肉の特売やっててさ、だから今日は律のだぁい好きなロールキャベツだお、やったねぇりっくん、どですかぁ、うれちぃでちゅかぁ……え?、何やってんの?、律、それって…』


 律は片ひざをつき、婚約指輪の入ったケースの蓋を開け、それを結月にかかげていた。


『なんか、その…こんなベタっていうか、ありきたりな感じであれなんだけど、これから先もずっとさ、俺にそのロールキャベツ作ってくれよ』


『うん、わかった……ねっ、ねっ、律っ、早くつけてつけてっその指輪っ、早く早くぅ』


『…あ、あぁ……』


 律は結月の左手をそっと手に取り、微かに震える手で、そぉっと薬指に指輪を通した。


『わぁ、やったったぁ、ほらキラキラしてるよっ、律、イヒヒっ、Butterfly今日は今まぁでぇの、どんなぁ時よぉり素晴らしい、赤い糸でむすばぁれてく、光ぃの輪のなかへ~♪』


 結月は左手を掲げながら、高らかに歌い続けた。


――てか普通、こういう時ってじっとしたままポロっと涙でもこぼすんじゃねぇの、なんか想像してたのと違ったな…にしてもめっちゃはしゃいでるな、こっちはこれから先の心配事で…生活のことは勿論、やれ養育費だ、やれあれだこれだ、つって、なんやかんやのてんこ盛りのオンパレードで頭ん中じゃ擬人化された“現実”達が、ヒ○ダンの“115万キロのフィルム”に合わせてパレードを始めたばかりだっていうのに、ったく…


――まぁでも、ユヅのこの笑顔がずっと見られるんなら、俺はそれだけで充分…それに来年には、“新しい笑顔”にも会えるわけだし…


 すると、律ははしゃぐ結月の手をさりげなく掴み、そのままグっと抱き寄せた。


『ん?、どうしたの?、律……ん……あ、ん……あん、ダメ、律……ん……あっ……ねぇ、あ……ほんとにちょっとダメだって……ねぇ、律、ほんとにダメ…』


 結月は下へと延びた律の手に触れ、どうにかその手を止めていた。


『ユヅ?……俺、ちょっとちからが入り過ぎてたのかな?、もし痛かったのなら、ゴメン』


『うぅん、そうじゃなくて……律、私ね、今日、生理きちゃって…だからできないの……』


『――――…………え?』




          《…憂終?!》






*本文内に引用した歌詞、及びタイトルの紹介です。

「Butterfly」 木村カエラさん。

「115万キロのフィルム」 Official髭男dismさん。


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愁いを知らぬ鳥のうた 三上コシカ @mikamiko

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