第43話 お約束+フラグ回収

『Warning!!

 ダンジョン第一階層で“異世界神の封珠”が破壊されました

 ダンジョン第一階層に『******』が召喚されます

 『******』は以下のダンジョンルールを無視する事が出来ます

 ・ダンジョンの壁・床・天井は破壊不可

 ・落とし穴に落下した場合死亡

 ・属性:空・崖の階層で落下した場合死亡

 『******』の種族は【??】です

 『******』は死亡後の鹵獲が可能です

 『******』は死亡しない限り5時間後に強制送還されます

 『******』によりダンジョンコアが破壊された場合、ダンジョンマスターは死亡します

 『******』により配下が死亡状態となった場合、強制退去となります

 『******』召喚時点でダンジョン内に居た侵入者は強制退去されました

 事態解消までダンジョンへの侵入は不可となります』




 赤い文字で並んだ文字を全て読み終え、ざっと打てる対策を並べた後、すぐに顔をあげた。


「ラート、クラウド、今すぐ外に行ってこれを持ち込んだ奴を特定して来て。絶対異世界人か拉致犯関係者だから。捕縛の方は出来そうだったらでいい」

「わかった、りょうかいだ」

「安全第一だろ? りょーかい、出来るだけ急いで戻る!」

「ショウヨウは非戦闘員に声をかけて最奥の階層に避難、何かあったら逃がす時の先導役で」

「その何かが無い事を祈りマスよ」

「ヘルディンは今回非戦闘員カウント。レポリス、クウゲン、ソールは自分の担当階層で待機。2つ目の担当階層を開放できるように準備進めて」

「えっ!?」

「……分かったわ」

「うむ、了解じゃ」

「待て嫁。お前はどォするンだよ」


 さくさくと指示を出しながら護剣とワンドを召喚し、黒一式に着替えるトリガーを準備すると、返答の最後でソールが聞いてきた。ついでなので魔力鍛錬の為にかけておいたリミッターも全部解除し、アイテムボックスから帽子を先に取り出してかぶってから答える。


「異世界神の見極めと分析。できれば討伐して鹵獲してくる。一応これでも最高戦力だし?」

「そォか。ッてちょッと待て、お前にしては好戦的すぎねェか?」


 あーうん、流石に気付くか。今まで専守防衛一択だったのが、自分から打って出ようっていうんだからそりゃおかしい。

 でもね。


「私が来た世界の神だったら利用されているから助けたいのが一点。違う世界の神であっても絶大戦力だから鹵獲は必須なのが一点。後は誘拐犯がこれ以上なく明確にかかわっている以上、八つ当たりしたって問題ないと思うんだ」

「あァ……要は嫁、キレてンだな」

「まさか。ようやく反撃の時が来たかと思ってるだけだよ」

「それをキレてるッて言うンだよ」


 とりあえずソールを納得させて担当階層に追い返し、黒一式に着替えるトリガーを起動。競売と同じくダンジョンの不思議機能『商売神の万能宅配☆』という微妙にリアクションに困る名前のネット、じゃない、魔法……でもないか、神業通信販売で購入した布の作業着が光り、その上に魔法陣が展開されて、その両方が鈴の音と共に消えると黒一式へと着替え完了。

 マフラーを首に巻いて顔を埋め、結界殻を纏って魔法を待機させ、ダンジョン管理画面で敵の位置を確認して、その3つ隣のフロアにワープした。


「さて、と……」


 問題は、異世界の神というのが何者か、という事だ。自分の世界の神でも有名どころしか知らないのだから、ぱっと見ただけで能力を推測とかいうのは難しいだろう。

 という事は……やはり一度、当たってみないといけない、か。

 とりあえず姿を確認して見る事にして、正確には侵入者ではないからか、自動では開かなかった監視画面をペンダント操作で開く。


「…………ん?」


 開いた、のだが、何故か画面が霞んで全く見えない。とりあえずそのまま見るのを諦めて画面を閉じ、管理画面の方で相手の現在位置を確認して、逆方向へ向かっているのを確認して、【ダンジョンの書】を取り出した。

 使うのはスロー再生機能。さっきの霞んだ画面は、高速の相手を自動追尾したために霞んだ……ように見えた。ソールやクラウドなら普通に目で追えるかも知れないが、とりあえず私は無理だ。


『……おい嫁? 何がどォなッてる?』

『主、すまんがスロー再生のリプレイを頼めるかの』

「あー、皆も見えなかったか……」

『見た事のねェ形のが走ッたのは分かッたンだが、速すぎンだろ』


 途中、ソールとクウゲンからそんな念話が入る。ソールが目で追えないとかどんだけだという話だ。

 これはスローなんて言わず、静止画にしてから皆に送るべきだろうと思って切り取りを実行。スローにしてようやく私の目にも霞む何かが居る事を確認して、その何かが真ん中に映っている辺りの時間を指定した。


『なンだこりゃ。馬、にしちゃ足が多くねェか?』

『いち、にぃ……8本とは、よく足同士をぶつけずに走れるの』

「8本足の馬、どっかで見た事があるような。ショウヨウ、ヘルディンにも一応見せたげて。詳しい筈だから」

『彼は神職だったのデスか?』

「いやだからさ、私のいた世界だと神様っていうのは基本いない訳で。確かに神様の名前や姿や伝承は残ってるけど、正直信じられているってだけだし。神職の人より趣味で覚えてる人の方が幅広く知ってるという状態なんだよね」

『…………この世界の神官達が悲鳴をあげそうな現状ね……』


 まぁ実際の神官の皆さんに同じことを言えば、たとえ元の世界であっても何をされるか分からないが。特に一神教の信者たちは。それに、本職より詳しい趣味人はそれこそほんの一握りだろう。

 どうやら適当に迷路を破壊しながら駆け回っているらしい八本足馬を赤い点の動きとして眺めつつ、さてあのスピードにどう対処するか、と考えていると、ふとまた念話が届く。


『マスター、知っていたようデス。彼によればそいつは“スレイプニル”。ほくおうという地域の神話のろきという神が生んだ半神の馬で、主神であるおーでぃんという神が乗る馬だそうデス』

「北欧神話のスレイプニル……あぁ、あの神の住んでる場所と地獄を含めた範囲を1日足らずで駆け抜けるっていう、バカじゃないのかってスピードと体力の」

『いや、異世界の事じゃから突っ込むのは野暮なのじゃろうが、何じゃ、主たちの世界では、地域ごとに神が変わるのかの?』

「そもそも神や神話っていうのが王家の血筋に箔をつけたり戒めの為の物語として位置づけられていたからね。ていうか、一神教が複数ある時点でおかしいと思うよ、この世界からしてみれば」

『は!? 一神教ッて確か、絶対主義の狂神官共が他の神を排除しようって過激な思想で集まッてるやつじゃねェのか!?』

「残念ながら、最大宗教は一神教なんだよね向こうの世界じゃ。ちょっと違うけど、教えをまじめに聞くと最終的にはそうなるから結局一緒かも。今は表面的に収まってるけど、宗教戦争がしょっちゅう繰り返されてた歴史があるし」

『……本当に、そちらの世界には神がいないのね……』

「隣人を愛せよ(ただし違う宗教の人間はヒトにあらず)。ここだけ見てもおかしいよ」

『ごめん主、隠密行動中だけど突っ込ませてくれ、それはどれだけ過激な宗教なんだよ!? 明らかにおかしいだろ!! 注意して止めろよ! 神!!』


 だから、その神が居ないんだってば。

 とか解説しつつ、監視画面をもう一度展開してみる。……うーん、相変わらずブレまくって何が何やら。

 と、思った、瞬間。


「っ!!?」


 初めてソールに遭った時のような悪寒が背筋を走った。その勘に従って即座に監視画面を閉じ、全力で後方へ飛び退りながら前方への守りを厚く厚く張る。

 私の張る結界は例え何千枚重ねようとも視界を阻害しない程度に透明だ。外から見れば阻害の効果でガラス玉のように見えるらしいが、中から見る分には普段の視界と変わらない。

 その視界の正面真ん中、先ほどまで私がいた場所で、空間がぐにゃりと歪み――音も色も置き去りにして、何かが衝突してきた。

 もとより私は浮いているので、さして抵抗も無く吹き飛ばされる。が、その勢いがとんでもない。張っていた結界殻に深々と亀裂が入り、監視画面で見ていたように周囲の景色全部が霞む。


(いやいやいや、それでもおかしい、正面と後ろに追加で結界を張って無きゃ抜かれてたし!)


 引きつり気味の顔でそんな事を考え、しかし右手にワンドを持ち直して目の前の神馬をロックオン。吹き飛ばされつつ、だが私に構っているせいで居場所が固定されている相手に対し、待機させていた魔法を叩き込んだ。


【スキル『同時展開』同系展開】

【スキル『複属性適正』(水・氷)アンタラティク・ニクス】

【スキル『複属性適正』(火・溶)ラーヴァ・フロウス】


 至近距離で撃つのは私自身だって遠慮したいが、結界の防御力を信じて0距離発射。いつか実験した時は半分の魔力であれだけの破壊を撒き散らしたその威力、適正魔力で撃ったら流石に効くだろう!


 と、思っていた時期が私にもありました。


「うっそ……っ、普通にノーダメージとか!?」


 その毛並に乱れすら見えない事に思わず狼狽えた。もちろんそんな事をしている場合じゃないんだけど、単純な一当てではない一撃を軽くスルーされるとは思わなかったのだ。

 そしてその間もスレイプニルは突進を続けている訳で、はっと気づいてダンジョン管理画面で現在地を確認すれば、もうすぐ階層の端に到達しようとするところだった。

 流石にこのまま土の中へ埋め込まれると身動きが取れなくなる、と、一番表面の結界に盛大にひびが入っているのを確認。


【スキル『結界術』内張り:壊返結界】


 その一枚下に破壊されるとダメージを返す結界を張り、更にワンドに魔法を待機させた。そして壁に衝突する寸前、わざと表面の結界を壊すと同時に、発動。


【スキル『水属性適正』フォールダウン×4】


 相手が突っ込んで多少なりと跳ね返されるのを、更に圧倒的な水量で押し流す。もがいているのがちらりと見えたので、照準をやや下に向け、足を掬うような角度でもう一発。


【スキル『水属性適正』タイダルウェイブ×2】

【スキル『結界術』設計結界“倍増球”】


 文字通りの濁流は神話の馬を飲み込んで押し流して行った。一安心なんてする暇は無いので、相手の視界から自分が消えたのが確定した瞬間にダンジョン内ワープを発動し、とある階層へ移動する。


「嫁、大丈夫か!?」

「怪我的な意味ではかすっても無い。いやしかし、驚いたな……アレを無傷とか」


 待機していたソールが文字通り金色の翼ですっ飛んできた。それにさらりと返し、割れた結界を厳重に張り直す。これは本腰を入れる必要がありそうだ。

 私の感想に何を思ったのか、ソールは横でホバリングしながら腕を組んで呆れたため息を吐いた。


「こッちでも思わず絶句したッつの。アレをまともに食らッて原形留める時点で有り得ねェよ」

「ソールに見せた時のあれ、実は威力試験だけあって魔力半分だったんだよね。今回はまともに込めてみたから、張ってた結界も表面から8枚も割れたし」

「嫁の結界で8枚ッてェと、島ぐらいなら跡形なく吹き飛ぶ威力だよなァ」


 威力考察に同意しつつ、それにしてはおかしい、と首をひねる。


「みたいなふざけた頑丈さしてると思ったら、案外あっさり水に流されたし。なんか微妙にちぐはぐなような?」

「……あァ、そォいやそォか。アレで吹き飛ぶどころかよろけすらしねェンなら、相当な重量があるッて事だよなァ」

「まぁ問題は、なんで画面を開いたら目の前に現れたか、なんだけど。神話で語られる能力が曲解されてる、とか?」

「スタミナと速度だろォ? どこをどォやッて曲解するンだよ」

『ぬお!? 今度は儂の所に現れたぞい!?』

「生存を最優先に!! 強制退去なんてされたら多分フルボッコだよ!!」

『分かっておる! がしかし、こやつ速すぎじゃろう!!』


 途中、慌てたクウゲンの声が念話で入ったので速攻で返事を出しておく。凌げてる辺りやっぱり戦闘力がおかしいような気もするが、今は置いておいてと。


「…………あ、もしかしたら」

「ン?」

「自在にどこにでも移動する。という事から、空間の揺らぎを通路ぐらいまで拡大できる能力、とか」

「あァ、そもそもどォやッて見てンのかとは思ッてたが、極小の穴開けて繋いで見てンのか」

「じゃあ問題はクールタイムだね。最初すぐに転移して来なかったんだから、クールっていうよりチャージかも知れないけど……」

『マスター、またヘルディンからデス。無傷だった事に関しては、ゲームの方の法則が適応されているかもしれないとの事デスが?』


 ゲームの方の法則。

 というと。


「なるほど、理解した。ヘル君にありがとうって言っといて」


 であるなら、さっきの一撃も全くの無駄だという事ではないのだろう。一応の心当たりがあってこの階層に来たが、それも当たりで良さそうだ。


「ソール、ちょっと離れてて。クウゲン、何とかそいつ撒けない?」

『地味に無理言うのう……。ソール、お主ちょっと手伝え』

「あァ? なンでオレが」

「文句言わないでさっさと行く。まぁ姿が見えててもこっちに釣られてくれればいいんだけど」


 と言いつつ開くのは監視画面。念のために階層を構築している浮島の1つの上に移動し、しっかりと結界を固定しながら様子を見る。

 うわぁ、目で追えないスピードの何かをクウゲンがあっちこっちにいなして逸らしてギリギリ耐えてる。あ、ソールが合流した。……おぉ、防御で気をそらしたところに不意打ちの一撃、しかもそこから流れるように追撃。

 追撃追撃不意打ちそして追撃という途切れる事の無いコンボ。だがそれでも傷らしい傷がついていないのだから、ヘルディンの読みは当たりという事でいいだろう。……ていうか、もうこのまま仕留められるんじゃないかな。


「とか、思ったのはまずかったか?」


 呑気な感想を抱いた私のその目の前で、ぐにゃりと空間が歪んでみせた。











死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:5

マスターレベル:3

挑戦者:42878人

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