第51話それぞれ5

 無事に平さんが退職となった。私は原付に乗って集金に回る。すみれとかえでのコラボ漫画もスタートして1週間になる。今まで以上のアクセスが上がっている。結局いろいろあって平さんの歓送迎会は行われなかった。それで今日内緒で有志だけのささやかな飲み会を飛田の平さんの店でやる。

 世話人代表は掃除のおばさんで外勤から3人、内勤から2人しか集まらなかった。7時からだが私は30分遅れて店に着いた。私の席は静江が確保している。それでも平さんは気を使って貸切にした。私を待っていてくれたのか乾杯のビールが今出てきた。もう父がワイシャツ姿でビールを運んでくる。平さんは約束を守ってくれたのだ。

「これは嫁だ」

 初めて平さんが頭を掻いて紹介した。へえ!と言うため息が漏れる。出世でくたびれたサラリーマンより幸せっだように思う。女将が子供連れて席に着く。

「なんかいいな」

 静江が私に相槌を求める。私は皿を運んできて下げる父ばかりが気にかかる。何とかなればな?

「どうですか?」

「もう1週間になるが慣れたようやな。朝11時から8時まで入ってもらっているわ。店が慣れたら間に集金を頼む」

 平さんに酒を注ぎながら話す。

「私の仕事手伝うなら金出すよ」

「いえ、私は頼母子にはかかわりませんよ」

「分かった」

 10時まで飲んだ。父はもう姿が見えない。遅くなったので私が静江を送ることになった。もうバスがなくなっているからタクシーを捕まえようとしたが静江が歩くといい張った。松虫の家の近くまで来ると彼女から唇を吸ってきた。

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