第5話 次の街へ
六ヶ月、この街に留まりただひたすらと経験と力を得ていったので、私はAランク、三人はBランクにまで上り詰めていた。
さらにこの町では知る人はいないと言うほどまで知名度がある。
ユーとリコ、リョウの三人は三人衆と呼ばれ冒険者に人気だ。
もちろんサンダーバードの知名度も上がっている。この街の問題を解決することもしばしばあったのだ。迷子の捜索や魔物の撃退などなど。名前が番号なので次第にナンバーズと呼ばれるようになり、領民に人気だ。冒険者ランクがつくとすれば一羽一羽がAランク、群れとしてはSランクにも匹敵する。
そしてそれを従える私がSランクになるのも時間の問題だ。一つSランクのクエストを成功すればいいのだが、そんなクエストは滅多にない。あるとすれば学生時代のときの魔物の大群のボスだろうか。
閑話休題。
シオン、三人衆、ナンバーズ。
その名はこの街だけにとどまらず隣町まで知られている……らしい。
なのでそろそろ王都に向けて次の街へ旅たつのもいい頃合いだろう。
「なので、そろそろ王都に向けて旅立とうと思っているのですがどうでしょう?」
「いいんじゃないか」
「いいと思うよ」
「経験も十分にありますからね」
『我々はどこまでもついていきます!』
今日、いつものように四人と一匹で集まりそろそろ旅たつ旨を伝えた。
元よりそのつもりだったのか快く賛成してくれた。
「では二週間後に出発しますか?」
「うん、そうね……それがいいかな」
「じゃあ、それまで依頼を抑えて準備するか?」
「はい、家族にも言っておいてください」
二週間後に旅たつことになった。
「ええ!? シオンさん、二週間後には旅たつんですか!?」
「え、うそ」
「マジで?」
「うそ、だろ」
話を聞いていたカメルさんが大声で叫ぶ。
そしてそれを聞いた他の冒険者が驚きの声を上げる。
少々面倒なことになった。
大声で叫んだカメルさんを睨む。
カメルさんは申し訳なさそうに頭を下げていた。
それから数日、シオン一行が旅たつという話題が飛び交い、混乱していた。
私が買い物に出れば、肉屋のおばちゃんにサービスをつけてもらったり、魚屋のおじちゃんに値引きをしてもらったり、サインを求められたりと、多くの人が私の後をカルガモの親子のようについてきた。
しかし私は気にせずに買い物を続けた。
今日はリコと服屋に行く約束をしており、待ち合わせ場所で待っていた。
「シオン様!」
「ああ、やっと来まし――」
「探しましたよ」
リコが来たかと思えば見知らぬ同世代であろう青年が来た。
「――誰?」
「そんな、覚えてないんですか、学生時代同じクラスだったボルグ・オートンですよ」
ボルグ・オートン……全く思い出せない。そもそも学生時代はクラスメイトと話した記憶がないのだが。三人衆とは話していたが他のクラスメイトとは話していなかっただろう。
「お願いします! 僕と付き合ってください!」
いきなり告白をされた。
周りの人たちも、「あの坊主、シオン様に告白しやがった、強ぇ」と驚いている。
「いやです。私、人待ってますので」
「え、ちょ、ちょっと待って! 僕の何が嫌なの!? 自分では言いたくないけど僕はかっこいいと思うんだけどっ」
「離してください」
こいつはあろうことか私の腕を掴んできた。
「ねえ、なんで。なんでそんなに嫌がるの」
「私が愛してるのは、兄さんだけなんです!!」
「「「「……え……」」」」
「シ、シオン……兄妹で恋愛なんてダメだっ」
今の兄がたまたまいたのか、そんなことを叫んでいる。
「なんでダメ何ですかっ。兄妹でも恋愛してもいいと言ったのは兄さんですっ!」
「そんなこと一言も言ってないんだが!?」
「私は兄さんが大好きなんです! この気持ちは誰にも邪魔させません!」
「ッッ!? そ、そんなことはダメだー!」
何か叫びながら走って逃げていった。
私が兄さんを愛しているのは絶対に変わらないことは確かだ。
「シオン様、お待たせ。その、ほどほどにしてあげて」
「いたんですか。遅いですよ」
「いやその声かけようとしたらちょうど告白されてるところで。声かけようにもかけれなくて。後、盛大な勘違いを生んでます」
「……?」
勘違い? なんのことだろうか?
「兄さんが好きって、シオン様の前世知らなかったら今の兄が好きってことに……」
「……あ。そういえば今世にも兄がいましたね。まあいいです、早くいきましょう」
「う、うん」
そうこうして色々な服屋や雑貨屋を周り、私服や冒険者用の女物の服を買った。
今まであまりおしゃれに関心がなかったが兄さんに惚れさせるためにも、そういう知識をつけていくのがいいのかもしれない。
買ったものは、上級冒険者が使う大容量の
「今日はもう帰りましょうか」
「うん、また明日ね、シオン様」
そろそろ日も落ちてきたので解散することになった。
家に着く。
「ただいま帰りました」
「おう、お帰り」
「お帰りなさい、シオン。もうご飯できてるわよ」
「ッッ!?」
母と父が食事の準備を進めている。
兄はなぜか顔を赤くしていた。残り二人の兄はすでに親元を離れており、姉はまだ家に残っている。
「あっ、シオンちゃんお帰りっ」
姉はシスコンなのかいつも構ってくる。
「ねえ、今度はお姉ちゃんとデートしない?」
「……じゃあ、一緒に出かけましょうか」
「え、いいの?」
「ファッションについて知りたいですし」
「やったー!」
姉はファッションに詳しいので教わるにはいい相手だろう。
「シオン、その俺もお前が好きだ」
「は? 何言ってるんですか? 気持ち悪い」
「……え、でも俺が好きって……」
「私が好きなのは前世の兄さんです」
「え、前世?」
「シオン、お前の口から言ってやれ」
まだいっていなかった姉と兄に前世のことについて話す。
「う、ぐすっ、かわいそうに」
「シオンちゃんっ」
二人とも涙を流す。
「そんなことより食事にしましょう」
なんとか無事に勘違いは解かれたのだった。
◇◇◇
あっという間に二週間が経ち、出発の日が来た。
まず向かうのは隣町の迷宮都市イヒンズ。農業都市シィカもいいが寄り道をしている暇はない。
ただ行くのもつまらないので、イヒンズまでの護衛の依頼を受けることになった。
「待ち合わせ場所はここですかね」
護衛対象である商人がいるらしい場所に着く。
「よっ」
「早く行くわよ」
「シオン早く早く」
「何してるんですか、父さん母さん姉さん」
どうやら私が旅たつのが悲しくて兄を抜いた家族総出でイヒンズに商品の入荷と出荷を行うらしい。兄は今、一人で商会を切り盛りしているだろう。少しかわいそうだ。
商品の入荷や出荷はいつもは部下に任せているらしいのだが、今回だけ変わったようだ。
一泊二日の旅になるがこれも依頼だ。しっかりと依頼をこなすとしよう。
馬車に乗り込み門を出る。
「「「「シオン様ー! お達者でー!」」」」
「シオン様っ! 大好きです!
「私も行くの! 離して!」
領民が総出で見送ってくれる。
カメルさんが他の受付嬢に拘束されながら、叫んでいる。
「皆さん今までお世話になりました。さよなら」
私も別れの挨拶を言う。
「これはほんの気持ちです。『
水でできた蝶が無数に飛び交い、光と反射して幻想的な景色を作る。
この魔法は私が暇つぶしに作ったものだ。パフォーマンスは十分だろう。
『『『『ピーーーーっ』』』』
サンダーバードたちも蝶の合間を飛び交い電気を纏う。
その光景は万人の目に焼き付けた。
「では、さよなら」
「「「「シオン様! お元気で!」」」」
私たちはみんなに見送られて、兄さんを探すべく次の街へ向かう。
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