第156話 依存症者の告白(156)

「かさじぞう」という絵本も、心に残っている。「ぐりとぐら」、信号機が主人公の「ピカくん目を回す」も。私の通った幼稚園では、絵本がよく配布されていたらしい。


 話せば、何ということのない物語である気もする。


 昔々、おじいさんとおばあさんがいて、おじいさんのつくる編み笠を売って、彼らは暮らしていた。


 年の瀬で、「おれ、今日は5つもこしらえたから、町へ行って餅を買ってくる。今年こそ、いい年を迎えるべ」などと言って、おじいさんは出掛ける。


 だが、編み笠はひとつも売れなかった。魚や米は、飛ぶように売れているのに、おじいさんの編み笠は見向きもされなかった。


 日が暮れて、雪がもかもか降ってきた。あきらめて、おじいさんは家路へ向かう。途中の野原にさしかかる頃には、もう吹雪になっている。

 その野原に、石の地蔵さんが立っていた。見れば、吹雪にさらされて、顔からつららをたらしている。


「あやぁ、むごいことだなあ。さぞ寒かろう」

 お地蔵さんは、6体あった。おじいさんは、売り物の笠を順々に、頭に被せていった。1つ、足りない。最後のお地蔵さんには、自分の被っていた笠を脱いで被せ、おじいさんは家に帰った。


 家では、おばあさんが餅を買ってくるだろうと待っていたが、おじいさんは何も持たず、真っ白になって帰ってきた。

 おじいさんが、道中の話をすると、

「そうかそうか。それは、ええことをしたのう。漬け物でも食べて、年をとるべ」

 とか言って、ふたり、さくさく食べて、寝る。


 すると、正月の明け方。

「よういさ、よういさ」と遠くから声がする。はて、なんじゃろうと、おじいさんとおばあさんは目を覚ます。その声はゆっくり近づいてきて、

「笠とって 被せた爺はどこにいる」

 と聞こえてくる。


「おーい、ここじゃ、ここじゃ」

 おじいさんが雨戸を開けると、大きな俵が置いてある。遠くの道に、編み笠を被った6人のひとたちが、のっこのっこと帰って行く姿が見える。

 俵を開ければ、正月の餅やら魚、飾り物や小金やらが詰まっていたという。ふたりは、しあわせになったとさ──


 今、読み返しながら書いている。なんとも、いい話ではないか。


 私が肝心と思えるのは、お地蔵さんの「恩返し」ではなくて、あの「あやぁ、寒かろう」と笠を被せたおじいさんの心根にある。何も考えず、ただ、笠を被せないではいられなかったこのおじいさんが、私にはどうしても忘れられないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます