第145話 依存症者の告白(145)

 庭にいた、ハンミョウという虫を、殺した。

 スプーンで水をとり、カゴの上から、ジュウシマツという小鳥の頭目掛けて、水を落とし続けた。小鳥は、翌日、死んでしまった。


 子どもの頃、なんであんな残酷なことができたのか。

 思い出すだけで、涙ぐむ。何のための涙なのか。

 いつからか、私はそういった殺戮をしなくなった。誰かから、やめろとか、やっちゃいけないとか、言われた覚えはない。


 今も、蚊は殺す。ゴキブリも、あまりに巨大だと、殺したりする。それ以外は、目立った殺生をしていない。町の中で、枯れた木を見掛けると、悲しくなる。雑草を抜く時も、複雑な気持ちになる。


 幼児期の、残酷だった私の心は、どこへ行ったのかと思う。それとも、知らないだけで、どこかに潜んでいるのだろうか。


 私は、殺人を犯した人に、なぜ人を殺めてはいけないのか、その理由を論理立てて説明することができない。きっと、「情」に訴えるような仕方になってしまいそうだ。


 その罪を犯した人だって、感情、つまり情的なものに突き動かされて、やってしまったのだとしたら。

 その人も私も、情に動かされるだけで、同じ穴に落ちることになる。

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