第133話 依存症者の告白(133)

 しかし、ほんとうに私は、何のために生きているのだろう。何を考え、何を悩んだ気になって、何をどうしていたいつもりなのだ。

 他のひとたちは、何を考えているのだろう?

 来る日も来る日も、なんだか、生きている。


 モンテーニュは、大ブルジョアだった。市長も務めたし、戦乱の時代の真っ只中で、おそらくは「善く生きた」人だったはず。


 全集のエセーも最終巻まで読み進めたが、書いてあることは、よくよく考えれば、「人間はこうあった方が良い」というような、至極当たり前のことが全体として多く書かれているように思う。あくまでも、自己探求としての書きものであることは終始貫かれているけれども。


 全集は関根秀雄の訳だが、中公クラシックスの荒木昭太郎訳のほうが、読んでいて「自分のものにできる」手ごたえがある。

 ほとんど直訳に近いのか、けっして読み易いとは言えないと思うけれど、そのために私は考えることができる。


 近年、やたら読み易いモンテーニュが出たけれど、あれはいけない。読み易いから良いわけでもないだろう。読み手から、少なくとも私は、考えることを奪われてしまった感じがする。


 頭を使うのは、大変な労働だ。池田晶子の一連のソクラテスを読んだ時は、ほんとうに疲れた。でも、嬉しかった。


〈読書なんか、健康に悪いですよ。〉

〈私自身が、この本の主題なのです。こんなつまらない主題のために、時間をさくのは馬鹿げていますよ〉

 モンテーニュはそう書いているのだが、しかし読もうとしてしまう。

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