第105話 依存症者の告白(105)

「生きることは死ぬことであり…」

 太陽の塔をつくった芸術家は、あの真っ直ぐ過ぎる目線でそう言った。


 自己を殺しながら生きる、満員電車の背広族の心情かとも想像できる。誰もが、生まれた時から死刑宣告を受けているも同然な、必然の運命を表わす言葉かとも想像する。


 生きると死ぬ、愛と憎悪、健康と病、快楽と苦痛。対極のものは、ヤジロベエのようなもので、どちらか一方を失うと、それ自体も倒れてしまう。あの芸術家の言葉は、それが本意に近いのではないかと私には思われる。


 空に向かって伸びる木は、その根を地中に向けて伸ばしている。その身を立たせているのは、眼に見えぬ地中にある。


 人間の精神は地中にある。われわれが見ているのは、そこから発芽した表象に過ぎない。

 結果結果と、内容ではなく、結果ばかりが重んじられている風潮があるけれど、


〈結果だけを重視するなら、ジャンケンで済ませばいい〉


 眼に見えぬ土台を、真っ直ぐな目線で見遣ることを、忘れまい。

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