第104話 依存症者の告白(104)

 つまらぬことを、つまらぬまま書こう。


 先日、寺へ行った。暑い昼の真っ盛り。歩いて、小1時間かかった。その帰り道、老婆とすれ違ったのだ。畑が左右にあり、公道ではあるが、そんなに広くない。人が横に4人並んで、ちょうど歩けるほどの幅である。

 前方から、老婆が歩いて来るのは見えていた。老婆にも、私が見えていただろう。しかし彼女は、まるで私を見まいとするように、麦わら帽子を顔が覆われるほど深く被っていた。


 私は男である。公道には、私と老婆以外、誰もいない。彼女の気持ち、不安ではあるまいか。通り魔だのあおり運転だの、わけのわからない事件も多い。

 挨拶しようかと迷ったが、見知らぬ男に挨拶されて、よけい彼女がビビったりしないか。

 私は、すれ違うのが怖かった。


 老婆も、私を見まいとしている様子だった。おたがい、無言のまま、すれ違おうとした。

 だが、そのすれ違いの瞬間、老婆の鋭い、刺すような目線が私に向けられたのを、私は見た。

 私は、傷ついた気持ちになって歩いた。

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